ZACC 高橋和義『終わり』との格闘。【GENERATION】雑誌リクエストQJ2005年7月号より

動機は不純だった

 

 

高橋和義は都内の高校を卒業した後、大学進学をめざしていた。得意分野は理科系。受験科目は数学や物理、化学などが主だった。

現役受験に失敗した彼は、浪人。2回目の受験も理科系の学部をめざす。

だが、公務員だった父親の強い勧めで、彼は「つぶしのきく」法学部と経済学部も受験。すべてが社会科のかわりに数学で受験できる大学であった。そして彼は結局、日本大学法学部に合格してしまう。

「悩むわけですよ。入学したはいいけれど、勉強する気が起きないんですね。とにかく社会科が嫌いなんですから。法学部なんておもしろいはずがない。そのうち学校にも行かなくなる」

 

その頃、彼の心の中にはまだ美容師という職業はない。

ただ日焼けして、髪を伸ばし、サーフィンのために海へ行く毎日だった。

だが、転機が訪れる。それは姉の友人のパーティーへの参加。

「大学1年の正月だったと思うんですよ。姉はモデルをやってましてね。いわゆる業界の人たちが集まるパーティーに誘われたんです」

そこで、彼は“ヘアメイク・アーティスト”と出会う。

「その人の生活がすごくカッコよかったんですよ。『トライアンフ』のオートバイなんかに乗っててね。部屋に遊びに行くと、きれいでね。いいなぁ、と。こんな生活ができるんだったらオレもヘアメイクになろうかなぁ、と」

思いつくと、彼のテンションは一気に高まる。このまま大学にいても、いつか行き詰まる。だったら今のうちにヘアメイクの道に進もう。そう考えた3日後には近くの美容室に、髪を切りに行ったついでに相談している。

「ヘアメイクになりたいんですけど、どうすればいいんでしょうか」と。

美容師は答えた。

「結局は技術を身につけることが勝負だから、いっそのことウチに来て働けば?」

大学では後期の試験が始まろうとしていた。だが彼はとても勉強する気にはなれず、悩んだあげく1週間後にはその美容室に就職していた。

 

 

髪の毛の分子構造を修復する

 

動機は、不純だった。

しかし彼には化学への興味があった。研究への意志と情熱があった。

 

「パーマには処理剤を加えてるんですね」

これは現在の高橋の話である。

トリートメントをオリジナルでつくったプロセスについて、彼は語る。

「そういう処理剤をもうちょっと極めていけば、トリートメントになっていくんです」

処理剤‥‥?

「前処理だとか、中間処理。後処理もあります。アミノ酸を加えたり、タンパク質を加えたり、水にこだわったりしながら変えていくんです」

 

パーマとは、髪の分子をばらばらに切って、当初の結合をずらしてつなぐことでウエーブが出る。そう聞いていた。そのときに髪は傷むのだ、と。

「正確に言うと、髪の毛のなかにある分子のシスティン結合を分離させますよね。それを再統合すると、数が合わなくなるんですよ。その合わなかった分子が減少していくので、それがダメージにつながるってことなんですね。だからダメージを最小限に抑えるのであれば、数が合わなくて手をつなげなくなった状態に、代わりの手を入れてつながる状態にしましょう、と。それが中間処理なんです。で、前処理というのは、システィン結合を切る前に、たくさんつながってるところと、最初からつながっていないところがあるから、薬剤でなるべく均一につながっている状態にしましょう、と」

 

なんとかイメージはできる。だけどこれはすべて分子レベルの話である。どうやって切ったり、つなげたりするのか。まったくわからない。

「そういう薬剤なんです。だけど難しいのは、傷んでいる部分と傷んでいない部分との平均化。毛先と根元では分子量が違うから、毛先にタンパク質を加えてあげる。また傷んでいる髪は薬が入っていくスピードが速いので、油分を加えて浸透のスピードを遅くしましょう、と。つまり処理剤はつねに全体の分子量のバランスを整える薬剤ですから、突き詰めていけばトリートメントなんです」

その使い方を、教えるためのマニュアルがある‥‥。

「いや、マニュアルじゃなくて、口頭で教えます。マニュアルを持つと、頭に入らないんですよ」

確かに。マニュアルがあると誰もがわかった気になる。

逆に『ZACC』は実践。人頭モデルで試行錯誤して、感触を手で覚える。頭だけでなく、身体で覚える。

 

自分がかけられるパーマ液

 

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