ZACC 高橋和義『終わり』との格闘。【GENERATION】雑誌リクエストQJ2005年7月号より

トリートメントの練習と研究

 

 

日本一のサロン。それが彼と、彼のスタッフたちの夢だった。

だが何をもって“日本一”とするのか。それが難しい。

売上なのか、指名客数なのか、雑誌の露出度なのか。それぞれに日本一はあるだろう。

少なくとも『ZACC』は雑誌の露出度では当時も、そして今でもトップを疾走している。だが、それだけでは測れない何かが『ZACC』にはある。

いや、その何かがあるからこそ彼らはトップを走りつづけているのだ。

ではその“何か”とはなにか。

 

科学、である。

『ZACC』は科学と化学のラボラトリ。より優れたヘアデザインのための化学を、徹底的に科学しているサロンなのである。

 

たとえば、その片鱗は次のようなスタッフの言葉に表れる。

「だいたいみんな毎日、朝夜練習やってますよ」

毎日、朝・夜‥‥。

つまりこういうことらしい。

スタッフは朝早くサロンに来て練習をする。

オープンの午後2時までの間に“社員食堂”で食事をとって、営業開始。

そして終了後にまた終電まで練習するというのだ。

あまりにも練習漬けの日々なので、高橋は練習禁止日を設けている。たまには早く帰れ、と。だが、それを守る人は少ない。

 

素朴な疑問である。私は聞いた。

そんなに毎日、練習することがあるんですか、と。

するとスタッフは答える。

「カットもそうですけど、カラーの練習だったり、パーマだったり。トリートメントの練習だったり。ま、なんでもやってますね」

トリートメントの練習‥‥?

「ウチはトリートメントをオリジナルでつくっているんで‥‥」

そう答えたスタッフの言葉を、高橋が引き取る。

「髪質は十人十色ですから。乾燥してる髪とか、キューティクルが多めにある髪だとか。そういうものに、どうやったら薬液が中に入れられるんだろうと」

「教えるんだけど、やっぱり体験しない限りはわかってもらえないので、モデルさん見つけてやってみるんです。それを積み重ねていくと、あっ入ったとか、入らないっていうのが、触ればわかるぐらいになってくる。理屈じゃなくて自分で感じるくらいになるまで、練習するんです」

いや、トリートメントですよ。既製品なら、メーカーさんのインストラクターが来て、新しいトリートメントの特徴なんかを臨店講習して、料金はいくらでメニューにいれましょう、と。

「塗れば終わり、というね。だけどウチはトリートメントだけで5500円いただいているんで。自分が5500円払うのに、どれくらいの価値を感じるかですよね」

「さっきの食事の話でいえば、10日分ですよね。1回のトリートメントに10日分の食事代。そう考えると、自分たちが美容師になって、お客さまからお金をいただくようになって、その価格に見合うだけの価値をつくらなくてはならない。やっぱりよそとは明らかに違う、と認めてもらえる技術のために、やっぱり練習も研究もやるしかないんです」

 

 

中性パーマの誕生

 

同様の話を、私は14年前にも聞いている。

この『リクエストQJ』が創刊した年。この『ジェネレーション』連載の5回目に彼は登場している。『ZACC』は当時、荻窪にあった。

14年前に高橋和義を描いた文章。その冒頭で、私は次のように書いた。

 

 

ヘア・デザインは、感覚と技術を競う職業である。デザイナー(美容師)はセンスを磨き、自らの技術を高めようとする。その目的は顧客のヘアスタイルを、顧客が望む通りに、あるいは望む以上に美しくつくり上げることである。だが、その過程で、デザイナーは気づくことがある。技術ではどうにもならないデザイン上の壁があることを。たとえばパーマ、である。市販されている薬液ではどうしてもそれ以上のウエーヴが不可能だという壁。その時、デザイナーの発想はふた通りに分かれる。ひとつは『現状では不可能』とあきらめ、薬液効果の範囲内でデザインしようとする発想。そしてもうひとつは『薬液そのものを研究して、不可能を可能にしよう』とする発想。高橋和義は後者であった。

 

 

当時、彼はパーマ液を研究していた。メーカーと共同で、髪を傷めないストレートパーマを。傷めないどころか傷んだ髪を修復する力を持つパーマ液を研究していた。

 

それから8年後。99年に取材したときは“中性パーマ”である。

当時、彼はこう語っている。

「パーマ剤というのは、簡単に言うとパーマがかかる仕組みの薬液があって、それが活発に働くためにはアルカリが必要だということが常識だったんです。しかも、その薬自体を髪の中に入れるためにもアルカリで膨潤させないと入らないという原理があったんですね。その時、髪の中に残る残留アルカリというものが髪をパサつかせたり、傷めるという原因になるわけです。それを省けば、傷みは半減するわけじゃないですか」

「ようするにパーマとは、かたちあるものを変える技術ですから。直毛を曲げれば、中の組成も変わってるわけだから。傷まないとか、壊してないとは言えないわけです。だけどパーマで一番イヤなパサつきがなくなるということであれば喜ばれるはずなんです。だからアルカリ無しで可能にしたいと思ったんです。原理はわかってましたから、あとはもう分子量とか、浸透性にこだわっていけばつくれる。水なので、クラスターの大きさとか、そういう世界ですけどね」

そういう世界、と言われても‥‥。当時、私はそう思った。

「研究を始めたのは自分の店をオープンして半年くらいたってからですね。その前はメーカー色の強いサロンにいましたから、特定の薬液しか使えなかったんです。だから独立したら、メーカーに縛られずに自由にやりたいと思っていた。それにもともと化学が嫌いじゃなかったし」

 

>動機は不純だった

 

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