田舎の美容師を変えた、クリエイションを追求した10年間
リアルヘアがトレンドのいま、それでもクリエイションを追求し続ける美容師たちがいます。三重県のなかでも「ど田舎」と言ってもいい場所でサロンを営むD.C.Tの松木宏紀(まつきひろき)さんもその1人。日本で数少ない世界に通じるコンテスト「ウエラ トレンドビジョン」の国内大会を優勝2回、準優勝1回という偉業を成し遂げた松木さんに、美容の世界の解けない命題、「クリエイションはなんのため?」にお答えいただきます。10年続けて見えてきたものとは?
地域に魅力がないなら自分自身が魅力になる!
クリエイションをはじめたのは経営者になってからです。10年経つくらいでしょうか。求人のためにはじめたというのが、正直なところです。僕のサロンD.C.Tがあるのは三重県四日市市、しかも大きな街からも離れた場所。求人に困る典型的なエリアです。
地域に魅力がないなら人で魅力をつくらないと、若い子たちにここで働きたいと思ってもらえない。そういう理由ではじめたクリエイションでした。
始めたときはやっぱり思い描いた通りにつくれないし、評価も伴わない。負けて悔しくて、ひたすら徹夜して追求して、の繰り返しでした。美容専門誌、JHA(Japan Hairdressing Awards)、そして4年間続けたウエラ トレンドビジョン……クリエイションを通してさまざまな挑戦をし、たくさんの悔しい思いをしてきました。その繰り返しのなかで求人のためとか、オーナーとして負けたくないといった当初の動機も、だんだんと誰の真似でもない自分にしかできない色やデザインをつくりたいというシンプルな思いに変わっていったのです。
10年続けて見えてきたクリエイションとサロンワークとの本当の関係
実はクリエイションのことを突き詰めて考えているときほど、サロンワークのことが頭をよぎります。
特にウエラ トレンドビジョンはほぼ1年がかりのコンテスト。1人のモデル、1つのヘアデザインのことを腐るほど見て、考えて過ごすことになります。そんなときにふと毎日のお客さまのことを自分はそれだけ考えているだろうか。お客さまとの信頼関係に甘えて楽に仕事をしてしまっているんじゃないか、と気づかされることが多々ありました。たとえばコンテストではシェイプひとつでも息を詰めて行いますが、サロンワークだとどうでしょう? もちろん1日に何人もお客さまがいらっしゃる営業で同じことは無理ですが、その真摯さは同じくしなければと思うのです。
そんな経験を何度もしていて最近やっと、クリエイションがサロンワークのためというのはこういうことなのかなと思うようになりました。今ではクリエイションを追求することが、サロンワークの追求に最終的につながることを実感しています。