本気で「辞めたい」と思った僕を救ってくれた尊敬する人の言葉 ―ANTI CHOさんの働く理由

デザインに向き合ったら、自分の好きなテイストが見えてきた

 

 

デビューして2年目に「自分の呼びたいお客さまに指名してもらうためにはどうしたらいいんだろう」と考えはじめました。27、28歳になり、美容学生時代の同期や仲間がどんどん店長になったり、コンテストで優勝したりしだして。僕には自分らしさがないと感じ、自分が何を作りたいのか、自分の好きなデザインは何なのかを考えたんです。

 

例えば、コンテストに出るにあたっては、自分の技術はもちろん、次にどういう流れが美容業界にくるのかを自分なりに推測しなければ勝てません。そういうことを意識し、デザインと向き合ってみたら、私生活まで変わりました。今まで写真を撮らなかったのですが、外出先や雑誌を見ているときはよく写真を撮ったり、「いいな」と思ったら雑誌を切り取ったりするようになったんです。そうやっているうちに、「僕はこれ好きなんだ」とわかりましたし、お客さまからも「これ、CHOさんっぽいね」と言われるようになり、「デザインで人を呼ぶってこういうことなんだ」と実感しました。

 

また、撮った作品をイルミナのフォトコンに出し1位になったことで、業界誌の撮影に呼ばれるようになり、仕事が形になっていく過程を知りました。僕は造形が好きで美容師になったので、知り合いのカメラマンさんやヘアメイクさんとコラボして、明石市のヘッドアートコンテストにも応募してみたんです。そのコンテストで優勝したことで、勝つ楽しみや、「もっと挑戦したい」という気持ちが生まれ、休みの日には、いろいろなコンテストを観に行くことも多くなりました。コンテストでは著名な方が審査員をしていることも多いので、審査員の視点を聞くことができ、とても勉強になりますし、刺激も受けています。

 

明石市のヘッドアートコンテストにも応募した作品「コスモ」。ヘッドピースはガンダムのプラモデルで制作。

 

これからは、スタッフの異変に気づける美容師でありたい。

 

 

実は僕、ANTIを辞めたいと思ったことが一度だけあるんです。それはスタイリストチェック前のとき。ちょうどそのタイミングで小松のアシスタントを離れて、別のスタイリストにつくことになったんです。接客の仕方から間の取り方、求めているものが小松とは何から何まで違っていたので、そのギャップに戸惑いました。

 

スタイリストになった今ならそのスタイリストが指摘した理由がわかるのですが、当時の僕は、アシスタント目線でいろいろと意見をぶつけてしまっていたんです。めちゃくちゃ怒られることもあったし、フロア全体のことと、その先輩とのことで板挟みになることも多くて、「もう辞めようかな」と思いました。そんな僕の異変にいち早く気づき、相談に乗ってくれたのが現表参道店の店長CHIIです。CHIIには、「もっと話さなきゃダメだよ。何を思って、何に悩んで、どうしたいと思っているか、しっかりコミュニケーションを取らなきゃ」と言われました。技術面やセンスで憧れているのは小松なんですが、お客さまとの向き合い方やホスピタリティ、スタッフたちへの心配りなどで目標にしているのはCHIIなんです。

 

今はANTIを辞めずに小松についてきてよかったと思っています。また、僕が悩んでいたときに言葉をかけてくれたCHIIの年齢に僕も近づいて行っているので、今度は僕が後輩たちの悩んでいたことに言葉をかけてあげたい。これからは僕がやっていることに興味を持ってもらい、スタッフたちにいい影響を与えていけたらいいなと思っています。

 

 

プロフィール
スタイリスト/CHO・松本智之(まつもとともゆき)

高校を卒業後、日本美容専門学校に入学。卒業後、ANTIに入社。BOSS・小松利幸氏のアシスタントをつとめ、その細やかな気配りで、小松氏に「過去最強のアシスタント」と言わしめるほど。

 

(取材・文/池山章子 写真/河合信幸)

 

 

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