HOULe 柏木ゆたかさん 〜どんな大きなステージに立ってもまだ半人前…技術者でいる限りゴールはない〜
「シザーズリーグ」の誘いを断ったのが運の尽き
ニューヨークで次のサロンにステップアップしようかなと考えていたのですが、高級サロンで求められるのは技術だけではなく上質な接客も欠かせないんですよね。僕は英語でそれを極めるまでの自信がもてなかった。だからビザが切れるタイミングで日本に帰ることにしたのです。
日本でやるからには表参道、トップのサロンがいいと思っていたので、帰国後、とりあえず書店でヘアカタをみつけて、掲載数が多いサロンから受けることに。でも、一番掲載が多かったサロンからは「今は募集してないから」と断られてしまったんです。気を取り直して2番目に掲載数が多かった「PHASE」に応募したら採用してもらえました。代表の横手康浩氏から沢山のチャンスを頂き、今の自分を築く事が出来ました。
入社して3カ月くらいでスタイリストデビュー。そこからどうやって先輩たちを追い抜いていくかだけを考えていました。当時は、カリスマ美容師ブームが起こる少し前で、「シザーズリーグ」(フジテレビ系)が始まるところ。「シザースリーグ出ない?」という誘いがPHASEにもきてたんです。
横手氏から相談を受けたんですが、「面倒だからやめましょう」と意見し、お断りしてしまった。それが運の尽き(笑)。周りのサロンの連中はテレビに出たことでガーン!と売れてカリスマ美容師としてもてはやされたんですよね。完全に出遅れました。
その後、出遅れ感を取り戻すために、雑誌社に売込みを続けていました。番組のブームも下火になった頃、僕は女性誌から声がかかるようになったんですね。毎月10〜15誌の撮影をこなし、売上も安定して600万円、700万円以上が続き、予約は毎日30名以上、休日はセミナーのために新幹線や飛行機で全国を飛び回っていましたね。
上質なナチュラルを多くの女性が求めていた
僕はナチュラル系のデザインが得意だったので、それが雑誌から求められました。かわいい系、クール系のデザインをつくる人はほかにもいたけど、ナチュラル系はいなかった。当時はナチュラルなスタイルを求めている女性が世の中にはたくさんいると思っていたから、そこを狙って突いたんです。
ナチュラルと何もしないのとは全く違います。モデルに似合う上質なナチュラルをつくるのは簡単じゃない。20代から培ってきた経験と技術をそこで生かすことができたかなと思います。やはり何年やっても、時代が変わっても、一番大切なのはベーシックなんです。
今振り返ると、SNSもないし、情報が少なかったことが、自分にとってはよかったですね。情報がいっぱいあると迷うし、他人と比べてしまう。僕の時代は良くも悪くも情報が少ないから迷いようがなかった。だから、自分が大事だと思うことに対して、迷うことなく没頭することができたんです。
>どんな大きなステージに立っても「まだ半人前」だと思っている