美容師から「お金の無駄」とバカにされて。アニオタ美容師が作るコスプレウィッグの過去と今—Lobby 高橋翔さん
2次元のアニメキャラクター(以下、アニメキャラ)の髪型をウィッグで再現する、コスプレウィッグカットのスペシャリストLobby代官山の高橋翔(たかはししょう)さん。23歳のころからはじめたウィッグカットは、たった一つの投稿で一気に注目を浴びることとなりました。
しかし、脚光を浴びた現在までの道のりは、決して順当ではなく、ときには同業者である美容師から心ない言葉を言われ、悔しい思いをしたこともあったそう。それでも高橋さんがコスプレウィッグカットを続けた理由を伺いました。
ずっと好きなことを隠してきた。技術に自信がなくウィッグカットで練習をスタート
僕、小学生のころからオタクだったんです。最近はオタクカルチャーが一般的になりつつありますが、当時は嫌煙する人も多かったので、オタクであることはずっと隠し続けていました。
美容師を目指したきっかけは、中学生のとき髪を切ってくれていた美容師のお兄さんがすごくかっこよく見えたから。「こんな僕でも美容師になればかっこよくなれるのかな」と憧れ、ただ漠然と「有名な美容師になりたい」と思っていました。中学校や高校のころから目立たず、オタクであることをバカにされたりもしたので、「有名になって見返してやりたい」という気持ちも強かったんです。
ウィッグカットをはじめたのは、23歳。専門学校卒業後に入社した美容室で、スタイリストデビューしたのですが、自分の技術に自信がなくて、週1でいろんなセミナーに通っていたんです。参加したセミナーの中で月100体のヘアスタイルを切ると技術が上がるという勉強法を知り、ヘアカタログを見ながらウィッグを切っていました。
「他の美容師と差をつけるためには、何か違うことをしなければいけない」と思い、ウィッグ代に月10万円以上かけ、ウィッグを買うために借金もしていました。ただ、途中で切りたいスタイルがなくなって飽きてしまったんです。「月100体切るために、どうやって続けようかな」と考えたときに、自分の好きなスタイルで練習すればモチベーションが上がると思い、アニメキャラの髪型をカットするようになりました。アニメキャラの髪型を作りはじめると、ひと束ひと束をどこに置いたらキャラと同じところに落ちるのかなど細部まで観察して作るようになりました。上達していくのがとてもおもしろかったです。1年後に1ヵ月で100体切る目標が達成したあとは、漠然と「これを何かに活かせないか」と考えていました。
2年間で300体をカット。コスプレウィッグが強みになった瞬間とは?
コスプレウィッグは、コスプレをするDJの友だちに作ったのが最初。作ったウィッグを友だちがTwitterにアップしてくれて、マニアックなキャラでしたが少しだけバズったんです。ただ、僕の中で手応えはまったくありませんでした。自分の技術をもっと高めていきたいという気持ちがとても強かったんです。友だちも「すごい!」ではなく、「ありがとう! 作ってくれて助かる!」くらいの反応でしたし(笑)。
その後も「ファイバー毛はどうやったらクセがつけられるのか」など、ウィッグカットの練習を繰り返していました。お客さまからオーダーがくるようになったのは、自分自身も好きだった「ラブライブ!」のキャラのウィッグを切りたいと思い、「よかったら僕に西木野真姫ちゃんのコスプレウィッグカットをさせてください」とTwitterでつぶやいたことがきっかけ。投稿が500リツイートされ、そこから少しずつ、コスプレウィッグのオーダーが全国からくるようになりました。当時は練習のためにやっていたので、切らせていただけるだけでありがたかったです。 カット代はもちろん無料で、ウィッグの送料も負担していましたし、納品のときには感謝の気持ちを込めてシャンプーとトリートメントもつけていました。
それを2年間続け、切ったコスプレウィッグの数は、2年で300体ほど。金銭面では赤字でしたが、お客さまが僕の切ったウィッグを被ってくれるのが本当にうれしかった。SNSに投稿してくださったり、DMでお礼の連絡をくださったり。めちゃくちゃ楽しかったから無料でも続けられたんです。
https://twitter.com/shotac_/status/777154049103704065
一気に知名度が上がったのは、2016年9月に作ったカードキャプターさくらの木之本桜ちゃんのウィッグ。コスプレウィッグカットをはじめて、3年ほど経ったタイミングでした。
有名なコスプレイヤーさんからの依頼だったのでプレッシャーもありましたし、「この仕事を成功させれば仕事が広がるんじゃないか」という期待もあり、気合が入りました。無事完成させ、そのウィッグをTwitterに投稿したあと、携帯を見たときはうれしさよりも戸惑いのほうが大きかったです。「そんなにいいねの数は伸びてないだろう」と期待はしていませんでした。しかし、その日行なっていたヘアメイクの仕事中は携帯の通知が鳴り止まないし、Twitterのアプリもなぜか開けない状態。アプリを起動するといいねの数が8千もついていたんです。
大きな反響を得られ、コスプレウィッグカットは自分の強みになると実感しました。オタクの心がわかるからこそ、オタクの人が求めているものを作れる。コスプレウィッグこそオタクである自分の強みとして合っていると確信したんです。