磯崎康一さん、あなたはどんな人なんですか?
思いがけず1人になって気がついた、自分をロングセラーにするためには
「JEWEL」を立ち上げたのは、2010年5月1日のこと。場所は東京・南青山。その前は14年ほど某有名サロンに勤務し、その後独立。もともと1人サロン経営ではなく、磯崎さん、スタイリスト1人、アシスタント2人の計4人でスタート。しかし1年足らずで他のスタッフは辞めてしまい、やむを得ない事情で1人サロンとして再スタートを切ることになったそう。
「辞めてしまったのは美容業界のスタンダードな育て方をしなかったのが原因です。僕は美容の技術ではなく、営業職になってもらうべく教育をしたんです。売り上げ理論と経営理論を叩き込もうとしたけど、その理論は目に見えないから、自分が本当に美容師として上手くなっているのか不安になってしまう」
技術ではなく、プロセスを踏めばアシスタントでも店販が売れるような営業方法を率先して教えていたところ、他の店舗とのあまりの教育の違いにびっくりされ、1人、また1人と辞めてしまい、残ったのはサロンと多額の借入金だったという。
「予想外の事態で大変でした。そこから立て直しを図り、今のように軌道に乗るまで綱渡りのような状態でした」
月額200万円を売り上げることを目標に置き、1人サロンの経営をなんとか軌道に乗せたという。有名サロン時代に培った店販ノウハウをブラッシュアップ。さらには著書の中で書かれているお客さまを信じて「待つ」というスタイルが確立していった。でも信じて「待つ」って苦しくないですか?
「自分をロングセラーにするんです」
美容業界では聞きなれない言葉が返ってきた。美容師をロングセラーにするということはどういうことか。
「まず、お客さまを自分の物差しでカテゴリ分けしないでほしい。服が華やかじゃないからこれくらいの年収なのかな? といったお客さまのカテゴリ分けはとても危険です。身なりではお客さまのレベルなんて計れません。言葉遣いや住んでいる場所、仕草その他トータル的な経験からお客さまを読み解くんです。
読み解いて、そのお客さまを
・気持ちよくできるか
・いかに恥をかかせないか
・我慢させないか
を心がけて施術してお客さまを完璧にして帰らせる。それを毎回続けることでロングセラーにすることができる」
自身が心配性だから、お客さまが来店する前に完璧に準備をして、力を蓄えて待つ。今月こなかったら来月くると信じる。信じられるのは自分の技術にも接客にも自信があるから。
文字にするとあっさりしているが、自信をつけるために売れるロジックの解明をしたという。しかし若手は売れるためのロジックを掴むのは難しい。
「若手のうちは個人の尊重は後回しにして、とにかく売れている人の接客術をマネして、それが淀みなくできるようになったら、自分なりのアレンジを加えればいいんです。
とにかく売れるロジックを把握すること。たとえば月100万円の売り上げが翌月110万円になったら、その10万円の中に売れる仕組みが隠れています。そこを棚卸ししてあげて、どこのフックで売り上げが上がったのかを明かすことが大事」
店販のアイテムにもロングセラーの秘訣が隠されているという。
「自分で気にいって選んだはずの商材なのに、途中で飽きてしまい、ラインナップを変えてしまう美容師も結構いるんじゃないですか。でも美容師が先に飽きちゃダメ。お客さまは信頼を寄せたものはずっと使い続けてくれる。だから店販品は最初に置くと決めたものから、動かしてはいけない。お客さまにここで買い続けることができるという、安心感を与えることも大事」
美容業界のスタンダードから外れているという磯崎さんに、今、磯崎さんから見て、美容業界で危惧していることを尋ねてみた。
「先々のことを考えられる美容師さんが、今何人いるのかな? と思ってしまう。楽観的な人が多すぎるのではと。50歳になった時、若い時の感覚のまま仕事が続くとは限りませんから、もっと先々のことを見据えてほしいという警鐘を今後も鳴らしたい。だから僕は自分のノウハウを隠さず伝えたい。美容師はノウハウを言わないことが多いけど、自分と相手は人間が違うんだから、同じことをしても同じにならない。お客さまを食い合うことなんて絶対にありえないんだから、僕は伝えていきますよ」
- プロフィール
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JEWEL オーナー 磯崎康一
2010年5月に南青山で美容室をオープン。現在1人営業ながら年商2000万以上をキープ。2014年3月には売上240万円を達成。現在は完全紹介制サロン。
(取材・文/高橋優璃)
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