各地で多彩な花を咲かせる“UMiTOSのDNA”を 砂原由弥インタビュー 後編-
練習よりも「何をどう感じて生活しているのか」が大事
オーナーとしてお金を使うとき、「美容文化を発展させるための投資になるかどうか」「美容師の偏差値を上げるための投資かどうか」と考えています。
練習することは当たり前に大事ですが、練習をたくさんすればいいかといえば、そうではなく、「何をどう感じて生活し、美容に落とし込んでいるか」ということが一番大事だと思いますね。
「食育」に力を入れているのはそのため。人間は食べた物でできているわけですから、何を食べるかというのはとても大切なこと。サロン内にキッチンを作り、栄養士さんを雇って、美味しくて体にもいいご飯を食べられるようにしました。
5月にはスタッフ総出で南房総に向かい、そこで田植えをしています。田植えには、食について学ぶという意味だけでなく、水と土と風から地頭を刺激し、インスピレーションを湧き立たせる効果もあります。南房総には、私たちが所有している森もあって、緑の香りや川の流れは、「どん突きの閃き」を与えてくれるんです。
センスを磨くというと、人は街に出てショッピングをしたり、美術館に行ったりしますけど、街にあるものは、あくまで人が作ったもの。物質社会で得られる閃きには限界があるし、消費より生産の力に意識を注がせたいんです。
「所有」よりも「還元」 教育に全てを注ぐ
UMiTOSのやり方の一部だけを切り取ると、「美容師に甘すぎる」と見られるかもしれません。でも、どんな環境であっても、本人の「覚悟」がなければ美容人生は早いうちに終わりを迎えます。この「覚悟」っていうのは、苦しみながら見出すものであって、「甘さ」の対極にあるものです。
美容師を辞める子の99%は「覚悟」が決まらなかったんです。自分が何のために仕事をしているのか分からないまま、サロンを去ってしまうのだと思います。
答えはすぐに見つかるものではないです。「何のためにやっているのか」を何百回、何千回も自分に問い続けても、出てこないかもしれない。
だから私は繰り返し伝えています。「今日、この美容師に会ってよかったと思ってもらうために、ベストを尽くしなさい」と。きっと、それが大きな問いに対するヒントになるからです。
私がやりたいのは、美容師を甘やかすとか厳しくするとか、そういう表面的なことではありません。美容師の将来のために、持っているもの全てを出して、美容師の文化度や人間性を高めていくことなんです。
そう考えると、お店が青山・原宿にあり続ける理由もなくて、むしろ、UMiTOSで育った子が地方で成功し、なおハイクオリティというのが未来のUMiTOSのあるべき姿かもしれない。モノや空間の「所有」にこだわるのではなく、「教え」を育てることに全てをささげる宗教のように。
とにかく、今自分が、新しいことにトライしている自覚はあります。子供もいるし、オーナーとしてお金にも向き合うし、下の子をどう育てていくかも考えるし…という具合で正直、かなりハードルが高いです。でも覚悟と意地と、先輩方への感謝と、そして後輩への愛を持って、さらにデザインを楽しんでいきたいです。
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- プロフィール
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UMiTOS代表/美容師×ヘアメイク
砂原由弥 (すなはら よしみ)
ファッション雑誌、美容業界誌の表紙、CM、ドラマ、PV、広告、カンヌ、ヴェネチア、香港、日本アカデミーショーなどの映画祭など多方面に活躍している。(014カンヌ国際映画祭もヘアプロデュースで携わる。)サロン活動に加え、芸能人のヘアメイクも数多く担当。全国各地からのセミナー講師、カットコンテストやフォトコンテストの審査員などのオファーも絶えない。
(取材・文/外山 武史 撮影/菊池 麻美)
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