ニューヨークのセレブが愛するエドワード・トリコミはどれほどプロフェッショナルなのか? 『ウォーレン・トリコミ』寺田洸さんが語りつくす
通称・シザーハンズカットを生み出した技術への妥協なきこだわり
-寺田さんから見たエドワード氏はどんな方でしたか?
いろんな側面があるので全部見きれたわけではありませんが……ロックンロールな方でしたね。もう60歳を超えていると思うんですけれど、今もサロンワークはもちろんショーや撮影などで飛び回っていますし。アーティストだなという印象を受けました。
あと技術へのこだわりは本当にすごいです。教えるときも一切妥協がなかったですし、日本でサロンをオープンするにあたっても、妥協することがないようにと度々言われました。
-レッスンのときはどんな点にこだわって教えられているようでしたか?
毎週月曜日の夕方はエドワードがカットレッスンを見る日でした。基本的には彼が切るとおりに切るのですが、やっぱり個々人のデザインや切り方がそこに入ってきますよね。そういったときに、どうしてそう切ったのか聞かれるんです。その答えが明確でデザインにちゃんとつながっている場合は、そこからディベートに発展したり、認めてもらえたりするのですが、答えることができないとダメなんです。
意図のないカットというのを、すごく嫌っているのを感じました。
-『ウォーレン・トリコミ』のカットはドライカットだと思うのですが、カットに対する彼のポリシーはどういうものでしたか?
米国のサロンはドライカットでカットすることが多いかと思います。『シザーハンズ』のほうのエドワードが髪を切る場面は、その中でもフィニッシュワークのカットがイメージとなったのではないでしょうか。
技術におけるエドワードの特徴は、サスーンに代表されるような“カットラインをきちんとつくるカット”とは対局です。わざとラインを崩すスタイルを提案したのは、革命的だったと思います。特にフィニッシュのカットは正確に切ったカットを、自然に馴染ませるためのテクニック。自然界に存在するものはランダムだから美しい、だからカットもそれに倣ったんだと話していました。
左右の長さが一緒である、ラインがまっすぐであるというのも、もちろん大切なことですが、そこに注力しすぎてしまうのは違う、というのがエドワードです。せっかく自分が切るんだから、自分のアイデアとか、お客さまが「なぜ」ここにきたのかに応えるほうが重要だと。これは僕にとっても深い教えでしたね。
-自分が切る意味、お客さまがそのヘアスタイルにする意味を大切にしているのですね。
だからカウンセリングではかなりの提案型でしたよ。なんでここに切りにきたのって聞いたりもしていましたし。毛先を揃えるだけなのに、このお金を払って僕が切る意味ある? とお客さまに言っていたくらい。雑な日本語訳ですが、本当にそんな感じでした(笑)。
でもこれってすごく本質的で、美容師にとって重要なことだと思います。彼のカウンセリングの様子は強く印象に残りました。