輝く美容師の裏側にフォーカス あの人の「裏ガオ」 #6 DADA CuBiC永江浩之さん
「辞めてもいいんだぞ」の言葉が2回めのターニングポイントに
こだわりを持って仕事をしようと決めるのは簡単ですが、そのこだわりを磨き続けて、更に先を目指すことが何より苦しいんだということにも気づきました。
僕はアシスタント期間が7年半と長かったのですが、スタイリストになる直前6年目のときに病気になり、手術をしなければいけなくなったんです。それがちょうど12月の繁忙期のことで、体調はよくなかったものの、12月いっぱいまではサロンに出ることにしました。
ただ、先輩や他のスタッフは気遣ってくれて、大掃除とかもあったのですが、営業が終わったらすぐ帰らせてもらっていたんです。それで、いざ入院する直前くらいにそれを植村に見咎められてすごく怒られたんです。
「みんなが大掃除やってるのに自分だけ帰るってどういうつもりだよ。体調が悪くてもやれることがあるだろ」って。当時の僕は、体調が良くなかったので帰って当然とどこかで思っていました。そんな感謝のない姿勢が見ていられなかったんだと思います。
そこで更に言われたのが「辞めてもいいんだぞ」という言葉でした。何故そこまで言われなければいけないのかと悶々としながら手術を迎えました。
入院中も、それが残っていてもう辞めてやろうくらいに思っていたのですが、ふと今の自分が何もできないことに気づいたんです。普通は6年アシスタントをしていればデビューしていてもおかしくないキャリアですが、僕がDADAに入りたいと思ったきっかけになったような、こだわりのある熱い大人にまだ全然なれていない。こだわりを持った仕事ができるようになるには取り組む姿勢を見直してやり続けるしかない。それでまた覚悟が決まりました。
今思うと、僕の甘い考えを見抜いての植村の言葉だったのかなと思います。入院前の僕は日々をただ消化し、時間を無駄にしていた。そう言った半端な気持ちが、所作や行動そのものに表われていたんだと思います。「おまえの覚悟はそんなものなのか?」と。
こだわりも持ち始めは楽しいけれど、そのこだわりを持ち続けて先を目指すことの難しさを感じた体験でした。
その難しさは今でも日々感じています。教える立場になっても毎年、気づくことがたくさんあります。こだわり尽くすというのは終わりがないし、永遠の課題です。
<美容学生さん・若手美容師さんへのメッセージ>
美容師という仕事は拘束時間も長かったり、忙しく大変な仕事だと思います。でも、やりきる覚悟を決めて本気になるスイッチを押してほしい。
自分が好きでこだわりを持てることが必ずあると思います。そんなこだわりは個性を生み、感性を分かち合える仲間ができ、自分自身を作っていきます。そのこだわりを持った仕事や生き方を続けることはとても苦しかったり、嫌なこともいっぱいあるかもしれません。
でも、それだけ感情が揺さぶられるからこそ成長できるし、本当に美容師という仕事が楽しいという気持ちは周りにも伝わるはず。頑張っている人、一生懸命な人を嫌いな人はいません。本気だからこそ、本当の美容師としての楽しさを感じられて、それこそが自分自身の幸せにも繋がると僕は思います。
- プロフィール
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DADA CuBiC トップスタイリスト
永江浩之さん
ハイセンスなカットデザインと巧みなカラー技術に定評があるトップサロン、DADA CuBiCの人気スタイリスト。長身で爽やかなルックスからは想像しにくい、職人気質な面も。似合わせの中にこだわりを忍ばせたデザイン提案が評判。
サロンワークを中心に、業界誌・一般誌の撮影、国内外のセミナーやショーにも出演するなど多方面で活躍中。
(取材・文/須川奈津江 撮影/菊池 麻美)