「明日からこなくていい」 有名店クビからの大逆転 −boat by ROVER 中沢和貴 U29次世代美容師−
古着屋さんのおかげで美容師に復帰
服装以外でも問題行動を起こしてしまって、入って1カ月もしないうちに「明日からこなくていいから」と言われてしまい無職に…。1年半くらい飲食店などでアルバイトをして暮らしました。
美容の世界から離れ、毎日のように「俺、こんなことしにきたんじゃない。どこかで美容師をやりたい」と思っていましたね。やっぱり僕は、人をプロデュースする仕事がしたいって。
そんなある日、よく遊びに行っていた古着屋の店員さんから、「仲のいい美容師さんが人を探しているよ」と、中途採用をしているサロンを教えてもらいました。ダメ元で受けたら合格をいただきまして。本当に感謝しました。
22歳でようやく美容師生活をリスタート。心を入れ替えて必死になって働きました。とにかく、細かいところまで気を配り、掃除をするときは見えないところまでていねいに。何を言われても簡単に「ノー」とは言わず、自分ができることをやりました。
お客さまに楽しんでもらうために、自分から積極的に話かけるようにもなったのもこの頃から。人見知りの性格も直り、人と話すことに対する苦手意識がなくなったんです。もちろん、練習も頑張りました。みんなが帰った後も練習するのは当たり前で、ときには0時を回ることもあったけど、辛くはなかったですね。
スタイリストデビューまでは2年半くらいかかりました。その後、今のROVERの代表を務めている小林さんに誘っていただき、スタイリストとしての仕事が本格的にスタートしたんです。
ていねいな仕事と律儀な対応で、お客さまの心をつかむ
僕が得意なのは、外国人風のつくりすぎないヘアスタイル。髪色も自然な感じで、根元にむかって暗くなるようにグラデーションさせることで立体感を出し、伸びても違和感がないように工夫しています。最後の仕上げまで徹底的にこだわっているんですよ。
そういうのって、お客さまにも伝わるんですよね。「仕事がとても細かいですね」「ていねいにしてくれてありがとう」とか、言っていただくことも多いです。僕は適当に「OK!」みたいにして終わらせない。少しでも違和感があったら、毛先の動かし方を変えたり、髪が多い部分を削ったり、最後まで妥協しないんです。
うれしいことに、有名な読者モデルさんが、サロンや僕のことをTwitterやInstagramで宣伝してくれたりするんですよね。あとは、YouTuberの方が遊びにきてくれたことがきっかけで、きてくれる人も増えました。原宿界隈にはSNSに強いサロンが多いですが、その中でもウチはちょっと落ちついた雰囲気なので、安心するお客さまもいるんじゃないかな、と思います。
あとは、Twitterでリプやメッセージを送ってくれた方には、きちんとお返事していますね。質問がきたら全部答えているし、サロンでのやりとりも全部覚えているので、一通一通、ていねいに感謝を伝えています。僕はこういう当たり前のことを大切にしているんですよ。
学生時代は興味があることにどんどん首を突っ込むべき
自分がいいと思うスタイルをイイ! と思ってくれるお客さまとモデルさんがいて、今すごくいい感じです。でも、メンズが7、8割くらいで、レディースの割合が少ない。サロンに女の子のスタイリストも増えてきたし、全体のバランスとしてもレディースの割合を伸ばしていきたいです。
ちなみに、うちのサロンはまだ3年目ですが、これまで一人も辞めていません。boat by ROVERの店長として、このいい雰囲気を崩さずに、サロンを成長させることもこれからの目標です。
振り返ると、シルエットやカラーへのこだわりは、専門学校時代からずっと変わりません。自分の原点はそこにあるのかなと思います。だから、もし僕が学生さんにアドバイスするなら、とにかくファッションとかヘアとか、それ以外のことにもどんどん首を突っ込んで、刺激を受けてほしいですね。あと、時間があるときに、カラーやワインディングを徹底的にやっておくと、デビューしてから役立つと思います。
そして、人との関わりを大切にしたほうがいい。僕はストリートスナップの撮影を通じて、編集の人とつながって、本当にいろんな人と出会うことができました。だから、ちょっと面倒だなって思う集まりにも、あえて参加してみるとか、どんどん外に出て人と会うといいと思いますよ。
- プロフィール
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boat by ROVER
CHIEF MANAGER/中沢 和貴 (ナカザワ カズキ)
群馬県吾妻郡出身。高校2年時、サッカーで国体の強化選手に選ばれる。国際理容美容専門学校国分寺校卒業後、都内有名店に入社。わずか1カ月で退社し、その後1年半のアルバイト生活を経て美容師に復帰。代表の小林氏に誘われROVERへ。現在は同ブランド2店舗目のboat by ROVERで店長を務める。つくりすぎない外国人風のスタイルを得意としており、芸能人や読者モデルからも支持されている。
(取材・文/外山 武史 撮影/菊池 麻美)
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