キャラになく胃が痛い思いをしていた毎日

近藤さんのもとで約2年間アシスタントとして経験を積んで、スタイリストデビューしました。デビューの直前、いきなりオーナーに「すな、来月からデビューだから」と言われて焦りましたね。そのころは、カットモデルさんに髪を切らせてもらったことがほとんどないし、ウィッグでのカット練習もあんまりやっていなくて…。アシスタントとしての仕事には自信があったけど、カット技術は不安だったんです。

しかも、オーナーからは、「自由にやっていいから青山店（現smiloop）を有名にしろ」という指令をもらいました。チャンスをもらえたのはすごくありがたかったけど、やっぱりプレッシャーはありました。

オープン初月は新規が80人。その当時僕のツイッターのフォロワーは1万人くらいいて、お客さんのほとんどがそこからきてくれました。僕は「100人はかたい」と思っていたからショックで…。さらに次月は1日1人とかそういうペースにまで落ち込んでしまい、ガチで胃が痛い思いをしました。

でも、落ち込んでいても仕方がないので、僕の強みであるSNSの発信力を生かしてツイキャス（ライブ動画配信を行えるサービス）を始めたんです。もともと僕は、「ひきすなキャス」という名前で、引地敬澄くんとツイキャスをしていて、見てくれる人も大勢いました。なので、せめて見てくれるみんなの役に立ちたいと思い、ヘアセットの様子を配信することに。なにか勝算があるとかではなく、とにかくやるしかないって感じでした。

でも最初は、恥ずかしくてまともに配信できませんでした。というのも僕、いつも引地と二人で配信していたし、自分のしゃべりにあんまり自信がなかったんです。

美容師同士で張り合っても意味がない

大体5分くらいでヘアセットの配信を終わりにしてしまっていたので、「見にきたら終わってた」とか「早すぎてよくわからない」とか、いろんなリプライがきました。それを参考に、配信方法を試していたんですが、アシスタントの子の髪でセットすると、見てる人も分かりやすいし、僕も手しか映らないから落ち着いて話せることが分かったんです。

そこから、視聴者数もどんどん増えていって、気が付いたらお客さまの男女比が逆転して男性8割に。予約も一杯入るようになり、今に至ります。日本全国から僕らに会いにきてくれるお客さんがいるんですよ。

おかげさまでたくさんの人に名前を知ってもらえて、「砂川さんを超えてみせます」っていう子も出てきました。目標にしてくれて、うれしいなって思います。でも、僕自身は誰かを超えるとか、日本一になるとか、そういうのに興味がないんですよね。

もちろんお客さまにとって一番の存在でありたいけど、美容師同士で争うのは違う気がする。どちらかと言うと僕は、ここまでくるまでたくさんの人に支えてもらったから、その恩返しをしたいという気持ちが強いです。みんなきっと理想の美容師像があるわけだから、誰が上とか下とか考えるんじゃなくて、そこに向かったほうがいいんじゃないでしょうか。

僕はオーナーに自由にやらせてもらえたから今があるし、僕自身も後輩の個性を潰したくないから、「僕に合わせなくてもいいよ」って伝えています。こんな感じなので、ユルそうに見られがちだけど、技術と接客はかなり細かくて厳しいから、他の店舗からきた子には驚かれるんですけどね（笑）。お客さまを笑顔にする技術をつけ、結果を出して、その上でみんな自由にやったらいいんじゃないかなと思います。

プロフィール

AKROS smiloop　
主任　トップスタイリスト／砂川 勇斗（すなかわ ゆうと）

千葉県出身。パリ美容専門学校卒業。千葉県内のサロンで勤務後、紆余曲折を経てAKROSの近藤佳菜子さんからの誘いで同サロンに入社。スタイリストデビュー後、AKROS smiloopを任され、ツイキャスをはじめとするコンテンツ配信で集客し人気店をつくりあげる。2016年7月15日からAKROSの協力のもと、引地敬澄さんと原宿に新店舗を立ち上げる。

Twitter
https://twitter.com/suna091?lang=ja

twitcasting
http://twitcasting.tv/suna091

（取材・文／外山  武史　　撮影／菊池 麻美）

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