「男性版顔立ちマップ」はメンズ美容革命の狼煙 資生堂ヘアメイクアップアーティスト・中村潤氏に聞く(前編)
SABFA合格が人生の大きな転機に
SABFAを受験したのは2007年。80名くらい受験して通るのは20名。倍率は3倍から4倍の狭き門でした。
「もし、落ちたら田舎で美容師を頑張ろう」
そんな風に考えていた反面、合格後の新しい可能性に胸を膨らませていました。結果が郵送で届く日、何時に届くかわからないのに、ずっと郵便局員さんを待ち構えていたんですよ。いよいよ通知を受け取ると、すぐに家に入らずに目の前の公園へ。封筒の中には合格の通知が入っていました。もうめちゃくちゃ喜びましたね、公園で。
不合格なら地元で、美容師一本でやっていくと考えていたものの、SABFAの合格に賭ける想いがやはりあったんです。SABFAで学ぶために上京したので、自分を育ててくれたオーナーさんたちには迷惑をかけることになりました。それでも、みんなSABFAに入ってからも応援してくれて、業界誌などに僕の作品が取り上げられたときは「素晴らしいね!」などとメッセージをくれるんですよ。ありがたいことです。
SABFAにはいろいろな人がいました。私のように田舎からやってきた人もいたし、ベトナム出身の人もいたし、ヘアサロンのオーナーをしている人も。さまざまなバックグラウンドを持った人たちと刺激的な学校生活を送ることができました。
制作課題が山ほどあって、20名しかいないからライバル同士の競争が起こるんですよ。自分が制作しているものを絶対に誰にも見せずに発表のときにドーンと発表する人。みんなを集めて相談して制作するコミュニケーション力がある人。せっかくSABFAに入ったのにどこかやる気が感じられない人。そういう人たちを巻き込んで制作するので、苦労もありますが、振り返るとやっぱり楽しい思い出ばかりですね。SABFAを卒業後、私は資生堂に就職しました。同期には超一流アーティストやタレントのヘアメイクとして活躍している人や、ニューヨークでファッション誌の仕事をしている人もいます。
美容師とヘアメイクアップアーティストの決定的な違い
ヘアメイクアップアーティストは、技術はもちろん表現の引き出しがたくさんないと務まらない仕事です。そのため、どうしてもアシスタント期間が長くなります。
例えば、映像作品の場合、作家が頭を掻きむしりながら文章を書いているシーンがあったとします。髪がボサボサになる様子を撮影したいけれど、髪は基本サラサラだから演者さんの演技だけでは表現できないんですよね。
前後のストーリーを読み込み、映像で再現するために自分ができることはなんでもします。髪だけじゃなく、演者さんの表情や置かれている心境を伝えるために、汗ばむ様子や肌の質感など細部の表現に徹底的にこだわる。しかも、現場が違えば課題も違うので、経験を積んで表現の引き出しを増やしていくしかないんですよ。監督やカメラマン、スタイリストや照明の担当など、その場にいるみんなのコンビネーションで、リアルな表現を生み出しています。