震災翌日もオープンしないと店が潰れる状態。大赤字でも2店舗目を出店した理由—10年サロン「NORA」のブランディングストーリー前編
2007年〜2008年 売上絶好調期
これからはブランディングの時代。目指すは「美容室っぽくない美容室」
『NORA』をオープンしたのは2007年4月。今年で12年目になります。
お店の準備をする中で意識していたことはたくさんありますが、一番重視したのは“ブランディング”。
当時、独立といえば、顧客がたくさんついているカリスマ美容師が自分の名前を看板にして独立するのが主流でした。原宿界隈にあって、芸能人が大勢きていて、雑誌にたくさん載っていることが、店の人気を測るバロメーター。でも僕は、今後ブランディングこそが大切な時代がくると感じていました。ブランディングの重要さは独立前に10年勤めた美容室でも叩き込まれていましたから。
ただ、当時のブランディングは「パーマが得意」、「こんなカットが得意」といった、あくまで技術の棲み分けのような話だったんです。例えば「ナチュラル」という名前の美容室なのに内装がテクノっぽくて、働いているのはギャル男というような一貫性のないお店などをよく見かけました。なので、もっと統一感のある店を作りたいと思っていたんです。
ブランディングを頼んだのはCIAという、ギャップやユニクロ、青山フラワーマーケットなど一流企業のブランディングを手がける会社です。本来なら、僕みたいに知名度のない美容師が一緒に仕事をできる会社ではありません。それでも、手書きで書いた店のイメージを見せながら必死にプレゼンをしたんです。そうしたらおもしろがってもらえて、クリエイティブディレクターの一人に「半年間、髪を切ってくれたら無償でやってあげる」と言ってもらえました。無謀な依頼でしたが、勢いは大事だと感じたできごとですね。
ブランディングでは「(従来の)美容室っぽくない店にしてほしい」と話していました。「サロン」って、本来は「談話室」という意味があるんですよ。当時は美容師がかっこいいと思う髪型を押し付けるようなお店も多くありました。しかし、『NORA』は本来の「サロン」の意味を果たせるような、コミュニケーションがとれる店にしたかったんです。
スタートするときに決めた理念は「変わらない美しさの追求」。時代にあわせて変化していくことが、不変の美しさになるという意味を込めています。それも美容室からの押し売りではなく、お客さまとの対話の中で生まれるものを大事にしたいと考えていました。今も、この理念はずっと変わっていません。
5人で月の売上が1,200万円。絵に描いたような好調スタート
1年の準備期間を経て、2007年4月にスタッフ5人、受付1人の6人で『NORA』はスタートしました。スタッフはみんな10年近いキャリアがあり、顧客がついていたので、最初の2年は絵に描いたように順調でしたね。
売上は最初の1ヵ月で500万円。ピーク時は5人で1ヵ月1,200万円を売上ました。敷地面積は32坪で、セット面は6つありましたが、常にすべて埋まっている状態。場所がなくて、お客さまに立ちながら待ってもらうこともありました。土日は必ずスタッフの誰かを休ませないと、お客さまが溢れて店が回らないほど入客していたんです。
そんな満員状態でも、お客さまからの紹介や、当時はまだ知名度の低かったホットペッパーへの掲載などにより、新規の集客も常にありました。おかげで売上は絶好調でした。
ですが、2年くらい経つとお客さまからも「いつきても長い時間待つね」と言われることが増え、「このままではまずい」と感じるようになったんです。
>「絶対に失敗する」という言葉を聞かず、拡張移転に踏み切った3年目。