初の離職者が出て気づいた問題点。VANのサロンではなく、みんなのサロンへ −10年サロン「Cocoon」のブランディグストーリー後編
2015年〜現在 権限移譲期
7年目で初めての離職者。決裁権が自分ではダメだと思い知る
ちょうど6年半を過ぎたときに、初めてアシスタントが一人辞めたんです。Cocoonは、酸いも甘いも共有して、家族同様の距離感や親密度を大事にしてきました。それに対して、「他人同士が家族になるって難しくないですか? そういう考えは窮屈に感じるから美容師を辞めたいです」と言われたんです。その言葉がグサッと心に刺さりました。
当時はスタッフが15名と増えていた時期。人数が増えることで同じできごとでも受け取り方や感じ方、価値観の違いが少しずつ出てきていたタイミングでのことでした。
僕がよかれと思い、大切に美容師として育て上げようとしていたことが、窮屈さを感じさせ、美容師であることすら嫌にさせてしまったんですから、すごく責任を感じました。
そこで初めて決裁権が僕にしかないことが問題だと気づきました。それまではスタッフ全員の了解が得られていたことでも、10人を過ぎたころから何かを選ぶことが、何かを選ばないことになるという現実に直面していたんです。大事なボーダーラインを決めるプロセスでも、僕だけが決めたものででき上がっていることに違和感を初めて感じました。
タイミングごとに主導権を持つ人は必要だと思うんです。単純に役を与えるのではなく、サロン全体のことや、ムードを中心的に動かすのは僕じゃなくなるように、共有の仕方や意思決定がされるまでのプロセスにスタッフ一人ひとりが関われる機会を作れるようにしたかった。だからそれからは、朝礼やミーティングなどをスタッフだけで実施したり、採用面接や練習会の合否ライン、その他の細かなできごとを、スタッフたちだけで考えて決めたり。そういった責任を大事にするようになりました。
その結果、スタッフも僕自身も、僕の評価より他のスタッフがどう評価しているのか、どんな意見なのかを気にするようになってきたと思います。
サロンの空気を動かすのはオーナーではない。スタッフ間の結束力を深めるために…
決裁権をスタッフにゆだねてから、スタッフ同士の行動に強い結束力ができたように感じます。
例えば、デビュー目前の子に仕事のオファーがきたとき。撮影日まで1週間しかない企画の依頼だったのですが、僕が何を言わずとも次の日の朝にはそのスタッフのためにみんながモデルを集めてきて、それぞれが協力的に行動し、口を出していました。スタッフたちが、デビューするその子のためにたくさん動いてくれるんです。
スタッフ同士がお互いのために動くのは、仕事ですので半強制な部分もあるかもしれません。ですが、そういう動きを自発的に実行し、次にやることをスタッフ間で結束して行っている姿を見られるのはとてもうれしいこと。
本当にここ最近ですが、僕自身も思考が柔軟になってきたのかもしれません。僕は、スタッフに「好きなジャンルの反対もやっておきなさい」ってずっと言ってきたんです。それは、美容師は自分の好きなジャンル以外もやっておかないと、お客さまの幅が広がっていかないから。けど、このころから嫌がっている人に無理にやらせなくてもいいかなって思うようになりました。それはその子への教育を諦めるということではなく、成長につなげたいからそう思ったんです。幅を広げるという目的を達成できるのであれば、時間がかかってもいいし、その人が一度失敗してしまってもいい。僕が言うより自分で気づくその過程が重要なのかなって。今までは、一つのできごとに対して、一つの選択肢、やり方しか与えていなかったんです。それはできるだけスタッフたちが最短で成長できればと考え、よかれと思っての指導のつもりでした。だけど、今思うと僕自身の焦りだったのかもしれません。
>Cocoonが目指すのは、スタッフみんなの想いと責任でつくるブランドサロン。