日本でお店を作る気はなかったのに。店舗展開を続けてきた経営の裏側 ―10年サロン「ASSORT」のブランディングストーリー前編
2010年〜2013年 保守思考脱却期
ルーツを活かして掲げた「International Hair Salon」のコンセプト
『ASSORT TOKYO』をオープンしたのは2011年11月。その前は、原宿の面貸しの美容室で働いていました。美容室に所属していたこともありましたが、アメリカ育ちなので日本的な縦社会や組織がどうも苦手だったんです。
しばらくは面貸しの美容室で施術していたのですが、自分の売上が伸びすぎてしまい、店舗の席数が足りなくなったため、やむをえずそこを出ることに。それが『ASSORT TOKYO』をオープンした経緯です。
もともと日本で数年間技術を学んだら、世界中をめぐりながらいろんな技術を覚えて、最終的に母国のアメリカでサロンを出したいと思っていました。だから、本当はこのタイミングで自分の店を出す気はなかったんです。自分の店をオープンしたのは、働いていた面貸し店舗でスタッフを雇っていたからでした。彼らが路頭に迷わないよう店を作ったんです。
現在も掲げているコンセプト、「International Hair Salon」は、オープン当初から打ち出していました。僕自身が日系人だし、英語も不自由なく話せるので外国人のお客さまにきてもらいたいと思っていたんです。ただ、当時は本格的に外国人をターゲットにした施策があったわけではありませんでした。むしろ、「みんなと違うことをやりたい」、「自分がかっこいいと思うものを作りたい」という衝動が大きかったですね。多店舗展開も考えておらず、会社を大きくするよりも、自由にいいデザインを作り続けたいと思っていました。
他の美容室に先駆けた広告利用で、フリーを獲得
オープン前にはトラブルもありました。オープンの2週間前になって、施工会社からいきなり「セット面は18面と言われたが、奥の6面は予算的に作れない」と言われたんです。確認しに行くと、他のところも僕のイメージとはまったく違うものになっていました。
相手もクリエイターだったので、こちらの要望は伝えつつもオリジナリティを発揮してほしいと思って任せていたんですが、それが大きな行き違いを呼んでしまいました。完成してからもやはり納得がいかず、内装は半年後にすべて新しくしました。
『ASSORT TOKYO』は、スタイリストが僕を含め3人、デビュー前のジュニアスタイリストが2人、アシスタント4人の合計9人でスタート。初めから店の業績は順調でした。面貸し時代の売上が月に600万円ほどあり、2012年には「ホットペッパービューティ」や「オズモール」、「ビューティナビ」などを使ってフリーの獲得にも成功しました。当時はまだこうしたサイトに掲載している美容室も少なかったので、おしゃれなものを作って掲載するだけで大きな効果があったんです。
ニューヨークではゼロからお客さまを増やす挑戦がしたかった
2013年にはアメリカ・ニューヨークに『ASSORT NEW YORK』をオープンしました。もし、ニューヨークにお店を出すなら30歳までにやりたいと考えていたんです。
ニューヨークに出した理由は二つあります。
一つは僕自身が日本にずっといるとつい保守的になってしまうこと。もう一つは、当時の『ASSORT TOKYO』がホットペッパーなどに頼りきっていると感じていたことです。当時は広告を打てば大きな効果がありましたが、いずれ他の美容室が参入したら飽和状態になるという危機感もありました。ニューヨークならそうした広告とは無縁ですし、ゼロからお客さまを増やす挑戦ができる。自分たちが作るデザインで勝負したかったんです。
海外出店にあたり大変だったのは、スタッフのビザの取得です。ビザは店舗が決まっていないと申請できないので、店舗を作りながらも、そこで働くスタッフのビザが下りるかわからずドキドキしました。
しかも、ニューヨークで働く予定だったスタッフのビザが降りなかったんです。そのときは、自分が1ヵ月だけ働いて、すぐにニューヨーク店をクローズすることも視野に入れました。しかし、幸いなことにオープン直前に現地の日本人から求人があって、なんとか店を続けていくことができたんです。
このときは、プレスやメディアにもたくさん取り上げられました。「29歳の日系人がニューヨークに2店舗目を出す」って、話題性があるじゃないですか(笑)。
日本でも話題になったこともあって、『ASSORT NEW YORK』はオープン初日から満席。その後も、僕のことをメディアなどで知った美容師さんが、ニューヨークに転勤するお客さまに『ASSORT』のことを話してくれて、その人が実際にお店にきてくれる、というケースが多かったです。
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