ビル地下なのに行列が! 家業の床屋を全国区にした二代目の思いーりよう室 ZANGIRI 大平法正さん
技術だけでは集客につながらない。1人のお客さまとの出会いで気づいたこと
「ZANGIRI」に戻った当初、「お店を繁盛させたい」という思いはもちろんありましたが、それよりも「自分にお客さまをつけたい」という気持ちが強かったんです。当時は父のお客さまがほとんどですから、自分にもお客さまがつけば自然と店は繁盛すると考えていました。コンテストで優勝したこともあって、技術には自信がありましたから。
でも現実は厳しく、お客さまに「親父のほうがいいね」なんて言われることも。技術だけが高くても、直接的な集客には繋がらないんだって痛感させられました。
そこで意識したのが、「きてくれたお客さまを元気にして帰そう」ということ。
こう考えるようになったきっかけをくれたのが、前の店を辞める直前に出会ったお客さまでした。のちに「ZANGIRI」をモデルにしたビジネス書『小さくても勝てます』を書くことになる、さかはらあつしさんです。
さかはらさんは、映画監督で企業コンサルティングもやっている方で、話の引き出しが多く、雑談がすごくおもしろいんですよ。会話の中で、「どうしたらお店が混みますかね?」と相談すると、「メガネ洗浄機がいいらしいぞ」なんて、ふとヒントをくれるんです。本ではそれを経営理論に当てはめているのですが、実際はもっと軽いノリでした。もしかすると、その軽いノリがトライしやすかった要因なのかもしれません。ヒントをもらううちに、「それぐらいならできそうだな」と、新しいことにチャレンジしていくようになりました。
「ビジネスマンを元気にする」。その思いで続けた10年間の検証
そこからは、さかはらさんのアドバイスをヒントに、自分たちでもさまざまなアイディアを出し、実行しては検証を繰り返していきました。お客さまに運をつけていただこうと銭洗弁財天で清めた5円玉をプレゼントしたり、髪を切っている間に靴磨きもできるサービスをはじめたり。それが積み重なって今に至ります。
この10年間で変わらないのは、すべてのトライがお客さま、つまり「ビジネスマンを元気にする」というコンセプトが軸にあること。「出世」というワードも、「ビジネスマンはどうしたら元気になるだろう?」という考えから、「出世したら元気になる」と思ったからです。それを明確に打ち出すことでお客さまへのアピールにつながりました。最近では「出世髪」シャンプーやワックスというオリジナル商品も作っています。
逆に決してやらなかったのは「安売り」。つまり価格競争に巻き込まれないことです。低コスト化をして利益を上げるのではなく、他店との差別化で勝負する。ベースとなるカット技術を高い品質で提供することはもちろんですが、マッサージやスキンケアといったトッピング(オプション)メニューを充実させるなど、ZANGIRIならではの強みを作っていきました。
ただ、改革を進めていく中でも、やっぱりZANGIRIは両親の店であり、長年築き上げてきたものがあることを忘れてはいけない、という思いはずっとあります。だから、新しいことをするときは、必ず父に報告するようにしているんです。
父は、DMが珍しい時代に自分でプリントして配るような柔軟な考えがある人なので、反対することはほとんどありません。けど、父に「いいんじゃないか」の一言がもらえるだけで、背中を押されるんですよね。
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