美容師は映像クリエイターに向いている!? 2つのキャリアがあるからこそ大活躍できる―GARDEN戸梶翔太さん
髪型までケアできる映像クリエイターはほとんどいない。美容師の経験が大きな強みに
映像クリエイターとして順調な滑り出しができたのは、人とのつながりだけでなく、やはり美容師だから持てる視点やスキルが大きいと思います。
クライアントは美容系の企業や美容誌をはじめ、ウエディングやミュージックビデオも多いのですが、みなさんもちろん「おしゃれな映像を作りたい」と思っています。でも、さまざまな映像クリエイターの作品を観ていて僕が感じたのは「髪型があまりおしゃれじゃない」ということ。やはり美容師ですから、他の人よりも髪型に目がいくんですね。
もみあげや跳ね上げがかわいいとか、逆光の透け感がかわいいとか。微妙なポイントって、美容師しかなかなかわからないんです。そこを拾えるのは、クライアントにとってはうれしいポイントになるはず。だから「圧倒的に髪型もおしゃれな映像を作れば、僕にも需要があるな」と思い、狙っていきました。
また、ヘアメイクと動画撮影を両方引き受けることができるのも、予算が抑えられるという意味で重宝されるんです。ヘアメイク道具と映像の道具を両方持っていくことになるので、かなりの荷物量になりますが…(笑)。
現場でも撮りながらカメラを持ったままヘアを直すので、その様子に撮影現場で笑いが起こることもありますよ。でも、もし撮影専任だったら髪が乱れていてもそのままになりそうなところを、その場で直せることで映像のクオリティがあがるのはいいことですよね。そういう意味でも美容師であることが役立っています。
動画を見たクライアントが涙…美容師だからこそ、うれしかった
映像制作が美容師の活動に生きることもあります。例えば先日、バレイヤージュの解説ムービーを制作したのですが、その撮影・編集で文字を起こしてとしているうちに理論がしっかり頭に入る。まるでセミナーを最前列で受けているようなもので、贅沢な経験だなと思います。バレイヤージュは自分のサロンではあまりやらない技術なのですが、こういった映像制作の仕事を機会に学ぶことができるんです。
また、「LiME」という美容師向け電子カルテのアプリのコンセプトムービーをiiiチームで制作したときは、美容師という職業の魅力をサロンワークやヘアスタイルの作品づくりとは別の形で伝える機会になりました。
ムービー制作においてクライアントから提示されたのは「小さな女の子の結婚までのストーリーを美容師目線で追っていく」という大まかなイメージのみで、他はすべてお任せ。でもメンバーみんな美容師なので、どんな視点なのか、どんな感情なのかなど、その光景は細かく説明されなくても目に浮かぶんです。だからこそ、細かな表現にこだわりました。
そうして完成したムービーをクライアントに見せたら、担当者が感動して泣いてくれたんです。美容師としての実感を込めて制作したムービーだからこそ生まれた感動だと思います。映像クリエイターとしても、美容師としても、すごくうれしかったですね。
美容師と映像クリエイター。両方あるから、より高みへ行ける
映像制作と美容師、どちらも僕にとっては欠かせないものです。一時期は、映像制作だけに絞って活動したほうが集中できるし、収入も上がるのかもしれないと思ったこともありました。でも映像の仕事は浮き沈みが激しいし、美容師として毎日お客さまと接しているからこそ、今の流行やニーズを知ることができる。反対に、美容師の仕事でうまくいかないことがあっても、映像制作の仕事の間に意識を切り替えられるので、気持ちが安定します。そういう意味でもこの両輪が今の僕には合っていると思っています。
映像制作はまだスタートしたばかりなので、もっともっと向上させたいですね。もちろん、映像制作の有無とは関係なく、美容師としてもステップアップしていきたい。もともと僕は何事も突き抜けないといけないと思っていて。それは「オール4の成績よりも、3があったとしても5があるほうがよい」という親の考えや、勝ち抜くことでしかトップになれない空手の経験の影響があるかもしれません。
今、挑戦しようとしているのは、美容師向けの動画作成のマニュアル番組。これからの時代、美容師はみんな動画を作れたほうがいいなと思っていて。そのために現在、sikiの伊藤竜さんと、美容師2人組Youtuber「munico(ムニコ)」のkiyoさん、naoさんと一緒に、新しいチーム「tipsy(ティプシー)」を立ち上げて準備をしています。
美容師としても、サロンで下を育ててチームをより強固にしていくのが今後の目標。すべて1人ではできないことなので、周りの人を大切にしながら一歩ずつ歩んでいきたいです。
プロフィール
GARDEN
NEUTRAL DOOR スタイリスト・映像クリエイター/戸梶翔太(とかじ しょうた)
1993年生まれ。高津理容美容専門学校卒業。2014年『GARDEN』入社、2019年5月より『NEUTRAL DOOR』勤務。縮毛矯正やデジタルパーマに定評があり、明るく気さくな人柄と丁寧なカウンセリングにお客さまからの信頼が厚い。2017年より映像制作の活動をスタートし、現在では映像クリエイターとしてもアパレルブランドや芸能事務所など多くのクライアントから依頼を受け、国内外問わず活躍。ヘアメイク、撮影、編集、音楽編集、モデルキャスティング、ディレクションまでこなす。
(取材・文/若月美沙 撮影/河合信幸)