カンタロウさん、なんで弟子を育てているんですか? ――古くて新しい人材育成の可能性
美容業界のトップを担い、さらに高める人材を育てることが僕らの責任
-個人として人を1人育てるのは、サロンで育てる以上の責任が伴うことだと思います。なぜそこまでして弟子をとることに踏み切ったのですか?
自分の思想を100%注ぎ込んだ美容師を育ててみたいという欲求が高まった、というのが一番の理由です。「売れっ子の美容師を育てるために必要なこととは?」という問いに対する、自分なりの答え合わせがしたかったんですよね。
それと同時に、LIMにとっての後継者を育てたい。LIMの中に自分の想いをより強く注ぎ込んだ人間を残したいという部分も大きくありました。やはり組織が大きくなると、たとえ統括ディレクターという立場でも自分の考えだけで教育やその他のことを決めるわけにはいかなくなってくるわけです。多くのスタッフを守り、育てていく上では、どうしても捨てざるをえないときもある。そういった中でこの数年、常に自分の中で葛藤やジレンマがつきまとっていたんです。
-厳しくしすぎると辞めてしまうということでしょうか?
簡単に言うとそうですね。LIMに限ることではなく、時代の流れとして若い人たちの感覚が、「美容師になる」=「就職する」、になってきたというのもありますしね。決して「修行」とは捉えていないんですよね。サロン側も美容師のなり手を確保するために、給与や雇用形態を一般企業に近づける努力をしてきた背景も影響しています。
もちろんそれは悪いことではないけれど、その反動として「美容師の仕事は職人業である」という感覚が薄れてきてしまっているように感じるんです。このままでは美容の世界の全体的なクオリティが下がっていってしまうのではないかと。
-その危機感が弟子をとり、徹底的に教育するという選択につながったのですね。
給与や休みといった労働問題を改善し、美容師の生活水準を上げるというのは、美容業界においてもとても重要なテーマのひとつです。美容業界の底上げという意味でも、99%のヘアサロンはそこを目指していいと思う。でもそれ以外の1%のヘアサロンというか、業界の中でもトップクラスにいるといわれているブランドサロンやカリスマ美容師も、同じような方法で、美容業界を盛り上げようとしていてはダメだと思うんです。
厳しい修行のような環境の中で、技術やクリエイションという分野を磨き、トップクラスといわれるサロンにまで登ってきたLIMがするべき美容業界への還元とはなにか?
それは美容の美しくて厳しい修行の世界をキープすること。そしてその結果として、業界をさらに上に引っ張りあげられる人材を育てること。
これが僕をここまで引き上げてくれた、社会への責任還元だと思うし、その役目を担っていきたいとも思っているんです。とはいえ結果(弟子を売れっ子の美容師にする)を出さないと、「カンタロウはニセモノだな」って言われるわけですから、なんとしても売れっ子を育てないといけないですよね。弟子もプレッシャーだけど、こっちもかなりのプレッシャーだよね(笑)。