謎の暇人美容師・KOHさんって何者!? 複数の肩書きをもつ男のワーク&ライフ
業務委託の仕事は儲かったけどつまらなかった
—自由な働き方をしはじめるきっかけはどんなことからだったんですか?
僕は中学卒業後の15歳のときに美容室でアルバイトをはじめ、18歳でそのサロンに就職しました。そこを3年勤めて退職したのですが、特に独立しようと考えていたわけではなく、本当になんとなくという感じだったんです。それでとりあえずカット道具を持って、タイに行きました。路上で髪を切って、料金の代わりにビールやごはんをおごってもらったり、お金をいただいたり。それがけっこう楽しかったんですよね。
—まさにKOHさんの原点といえそうな体験ですね。
髪を切るという行為が人と出会える最高のツールだというのはすごく感じました。その後、業務委託という働き方があると知って、人手不足のサロンと個人契約を結んで働きはじめました。これは正直、すごく儲かりました。人手不足のサロンなので、ライバルがいないんですよね。契約の価格を上げていくのも難しくなかった。……でもつまらなくてすぐにやめちゃいました。
—儲かるのにやめちゃったんですか?
これだけ儲かるんだというのがわかったら、つまらなくなっちゃったんですよね。そんなときに尊敬している美容師さんが、大切なのは「誰を切りたいか」だと話してくれて。僕もすごく共感して、そこからお客さまを絞っていき、今はほとんど友だちやその友だちの髪しか切っていません。僕が髪を切ることで、人生をよくしてもらいたいと感じる人だけを切りたいという思いになったんです。
例えば量産されたお弁当よりも、大好きな彼氏のために作ったお弁当のほうが絶対に美味しいじゃないですか。しかもその人は労働としてではなくて、作りたくて作っているから、そのときの熱量ってすごい。僕にとっての美容師の仕事も、今はそんな感じです。
「全メニュー無料」。そして次は、カット料金1万円に!
—最近では「全メニュー無料の美容師」というのをやっていましたよね。
全メニュー0円にして、募金とチップだけで営業をしていました。これもすごく面白かったですよ。募金の額から人のいろいろな面を見ることができました。募金箱に67円しか入れていかない人もいれば、相当の金額を入れてくださる方もいる。駆け出しのバンドマンでお金はないけれど、ヘアスタイルはちゃんとしていないといけないという人の髪を切ったときには、この企画をやった意味があったなと感じましたし。
—収入としては、それで成立していたのですか?
いえ、成立しませんでした(笑)。でもそれ以上にこういうことをしていると面白い人が集まってきて、僕の世界が広がっていくんですよね。それが何よりの価値だったし、そういう意味ではやった意味があったと思っています。
今は全メニュー無料化から次の段階に進んで、料金設定をシステム化しました。ヘアカットの定価は10,000円。でも僕と友だちの人は50%オフで5,000円。さらにあるポイントサイトをうまく使えば、実質0円でカットできる仕組みです。
—0円でもOKというのを残して大丈夫なんですか?
まぁ、でもまだ0円でカットしたお客さまはいないんです。0円になるのは現金の代わりに、SwiftDemandというサービスのポイントで支払ってもらう場合で、このサービスは現在1日1クリックするだけで100swift(point)が受け取れます。これを1swift=1円としてカット料金を支払えるようにしました。だから一応完全に無償というわけではないんですよね。このサービスは仮想通貨上のベーシックインカムの思想に基づいたものなのですが、将来的に現金に換えられる可能性があったり、なかったりというまだ不確定なサービスで。結果、本当に無償という場合もあるんですけどね(笑)。
そもそも美容の世界で料金の話をするとき、美容師の価値を高めるという視点で「いかに料金を上げられるか」を議論されることが多いですよね。でも僕はまったく違う尺度で施術料を捉えていて、料金はお客さま選びのツールだと思っています。そして僕はいろいろな人と出会いたいので、固定の料金設定をして1つの層に絞ることができない。だから今回のシステム化で、料金を3段階に分けました。それぞれの価格に反応するお客さま層にアプローチできて、さらに予約の時点でどういう人がくるかを知ることができるのが、このシステムの面白さだと思います。
美容師の仕事は自分の発信次第で、面白い人が向こうから集まってきてくれますよね。それがこの仕事の一番の魅力だと思っています。
—美容師の仕事自体は好きなんですね。
仕事というよりも趣味とう感覚に近くて、楽しいし、ずっと続けていきたいです。美容師の仕事は僕にとってリアルに1対1で人と接することができる、もっとも情報価値の高い瞬間を味わせてくれる場。海外にいっても「髪、切りますよ」の一言があれば、普通の観光にはない多くの出会いに恵まれるのもこの仕事のすごいところだと思います。