「売名行為」と言われても揺らがなかった。『五番街』はなぜ貧困家庭の子どもの無料カットを創業から40年続けているのか

無料カットがきっかけで美容師を目指した人も。奇跡のようなできごとを経験できたのも、この活動をしていたからこそ

 

 

40年近くこの活動をしていますが、いろいろなことがありました。ある日僕が朝一番にきた女性の髪をカットしていたら、その方がぽろぽろと泣き出したことがあったんです。「うわっ、短く切りすぎちゃったかな!?」と焦って声をかけると、その方は僕の顔を見て「私、昔ここでカット券を使って髪を切ってもらっていたんです」と言いました。

 

彼女は小学生のころ、髪が伸びてもお母さんに美容室に行くお金をもらえず、頭を満足に洗うこともできずに臭くて、それが理由でいじめられていたそうです。でも、『五番街』の無料カット券が届いたので恐る恐る訪れてみたら、お姉さんが髪を洗ってくれて、大人と同じように扱ってくれて。そうして髪をきれいにしたことで、いじめられることもなくなったのだと。

 

「『五番街』の無料カット券は、神様からの贈り物みたいでした」とその女性は言っていました。彼女はその経験から美容師になることを決意して、この日は就職した美容室での初任給で髪を切りにきたそうです。もうずっと昔の話ですが、今でも話すたびに泣いてしまう話です。こうした奇跡のようなできごとに支えられて、活動を続けることができていますね。

 

「売名行為」と言われても、ただひたすらに子どもたちを喜ばせ続けてきた

 

 

辛かったできごとももちろんあります。あるときは派手な女の人がやってきて、「1回3,000円の無料カット券が2枚あるから、現金6,000円と交換してよ」と言われたんです。「これは僕の志だけでやっていることで、金券ではないんです」と丁寧に説明しましたが、「いいから変えてよ!」と怒鳴られましたね。

 

同じようなことは、何回かあります。ガラの悪い男の人にやられたときは、お店の空気も緊張するし本当に困りました。彼らはいつも「世の中にそんな善意で生きている人がいるわけない」と捨て台詞を言って帰っていきます。そう言われると傷つくし、自分なりに精一杯やっているつもりだけど、まだ足りないところがあるのかなと、落ち込んでしまいますね。

 

地域の人や近隣の美容室の方も、すぐに理解してくれたわけではありませんでした。僕は違う街からきたよそ者ですし、最初のうちは「売名行為だ」とか「選挙にでも出るの?」と揶揄されたこともあります。だけどそういう言葉は全部受け流して、無視していました。「いろいろ言われているけど、俺は子どもたちを喜ばせているしな」って。

 

そうして10年、20年と続けていると、次第に理解してくれる人は増えていくものです。今では「『五番街』は大したもんだね」といろんな人が言ってくれるし、僕のことを「アニキ」と呼んで、悩みを相談しにきてくれる街の人がたくさんいます。続けてきてよかったと心から思いますね。

 

>小さな美容室も、社会貢献を考える必要がある

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