MINX 高橋マサトモ 採用のための『ジャパン・ツアー』!?【GENERATION】雑誌リクエストQJ1994年4月号より

 

引き出しの中を空にする覚悟

 

 

さらに翌年、つまり1991年は『クレスト』の年だった。

 

「ぼくらが質感とかディテールにこだわっていると、周囲の美容室も盛んにやり始めたんです。で、他人と同じことをやるのはとにかく性格的にダメなんで(笑)、じゃあ次は別なことをやろうぜ、と。別なことというより、もう少し主張を明快にしていこう、と。それでクレスト」

「これは鶏のとさかという意味なんですけど、前髪をピーンとV字型にした。もちろんこれは業界向けの、業界のためだけのヘアスタイルなんですけどね。作品にして発表したんです。前髪を思いっきりV字にするスタイルを、一所懸命表に出したんです」

「それが周囲の美容室にも。またメディア関係の人にもインパクトがあったみたいで、ミンクスさんは強烈ね、ちょっとおかしいねとか(笑)。ちょうどナチュラルが流行りだしてたころでね、そのころから過激だって言われ始めた」

 

そして92年がやってくる。

その年の年頭に彼は『エレメント』というコンセプトを発表。次々と新しいヘアスタイルを量産する。

 

「エレメントは、養分とか成分という意味。過激だと言われ始めた時、ちょっと待てよ、という気持ちが湧いてきた」

「ぼくはいつも時代背景の影響の中で物事を考えますから、ちょっと待てよ、と。どうも全体的にそれまで使われなかったヘアスタイル、たとえばカール的な要素とか、カラーとか、ローラーを巻いてみたりとか、そういう質感が流行ってきた時代だった」

「で、ぼくはその時、それまで自分が使わなかった技術を、一度全部使いきろうと思ったんです。それがテーマになった。つまり自分たちの引きだしの中に使いきっていなかった技術がたくさんある。時代とともに使わなかった技術、デザイン、引きだしの中にしまっちゃって忘れかけているもの。たくさんあるでしょ。それらを一度、全部使ってしまおう、と」

 

クリエイターにとって、自分の引きだしの中身を全部、さらけ出すことは勇気がいる。なぜならあとは抜け殻になってしまう恐れがあるからだ。しかし、彼はそんな不安を一度も持つことはなかった。

 

「逆に全部、出してしまわないと、新しいものが生まれない。とっておいてもしょうがないしね」

 

そして93年。つまり去年の彼のコンセプトは『OVER』。つまり従来のすべてを超えて、新しい何かを表現することにつながるのである。

 

講習の矛盾とステージの矛盾

 

約6年間、自己主張をつづけてきた『MINX』の名は、今や全国に知れ渡っている。

その間、彼はコンセプトを打ち出し、雑誌に作品を発表し、サロンを経営しながら講習で全国を回った。

下北沢の店舗は2店となり、広尾にも『MINX』ができた。

だがその間、彼はある仕事に疑問を持ち始める。

それは講習、であった。

 

「講習をやっているとね、矛盾を感じちゃうんですよ」

「求められて出かけていくでしょ。多い時は月に8、9回くらいかな。するとね、サロンにいる時間が少なくなるわけです。当然、ウチのスタッフとの触れ合いも少なくなるでしょ。それが第一の矛盾。つまり他のお店の美容師さんにばかり教えていて、自分のサロンのスタッフには教えていない、ということ」

「それにね、地方に行くと若いコがたくさん集まってくれるんですね。で、一所懸命聞いてくれるんですよ。するとよけい辛くなる。というのは年間に同じところには3、4回くらいしか行けないでしょ。すると伝えることが限られてくる。1回で4時間あったとしても、ぼくにとっては非常に小さなものなんですね」

「毎日のようにスタッフと一緒にいても伝えきれないことがたくさんあるのに、年に3回くらいではね。だからいつも帰りの飛行機とか、電車の中で矛盾を感じてくる。いいのかな、オレ、こんなことやっていて。金のためだけにやってんじゃないのかな、とね。で、辞めたんです。スパッと」

 

その代わり、彼はステージ活動を開始している。しかもそれは『MINX』単独のステージである。

 

「ステージは楽しいですよ。わくわくドキドキする。ワンステージ、800万円から1,000万円くらいかけて、照明も音響もすべて企画してステージをやるんです」

 

きっかけは2年ほど前。ある大手メーカー主催のステージであった。

 

「ミンクスのコーナーをつくってもらったんです。その時、心に火が付いた」

 

今では年間7、8本のステージを彼らはすべて自前の企画で開催する。

 

「当初はメーカーさんやディーラーさんから依頼が来て、それに合わせてやっていたんです。ただ、そこでも矛盾を感じましてね」

「ぼくらは依頼を受けて、ギャラを提示されてその範囲内でできることをやる。でもね、どうしてもできることに限りがある。観にくる人はミンクスのステージを望んでいるわけです。しかも5,000円とか、そのくらいの入場料を払ってね」

「そうすると、ぼくとしてはメーカーさんディーラーさんに気に入っていただくよりも、観にきた人に喜んでいただきたいという気持ちでやっているでしょ。ま、中にはお客の立場に立って物事を進めてくださる方もいるんです。でもね、そうじゃない方もたくさんいらっしゃるわけです」

「たとえば500人も1,000人も集めておいて、5,000円も入場料を取る。それでミンクスとしてはギャラの範囲内でしか観せられない・・・。これは矛盾感じますよね」

「だってミンクスのステージは若いコが対象ですから、そのくらいのコってせいぜい週に1回か2回、クラブへ行って2,000円で朝まで夜通し遊ぶくらいしかできないじゃないですか。それに対して5,000円はうやっぱりキツイわけですよ。だったらもっと自分たちの手で、逆にぼくたちがスポンサーを使うかたちでステージをやる。もちろん入場料も自分たちで決める。そんなステージがやりたいと思ったんですね。それが今年、5月からスタートするジャパン・ツアーなんです」

 

>『MINX』ジャパン・ツアー開幕

 

Related Contents 関連コンテンツ

Guidance 転職ガイド

Ranking ランキング