MINX 高橋マサトモ 採用のための『ジャパン・ツアー』!?【GENERATION】雑誌リクエストQJ1994年4月号より
CONTENTSという美容の原点
理論と哲学・CONTENTS・・・。
それはいったいどんなイメージなのだろう。
「ミンクスを9年やってきて、今までは出来上がりのスタイルの完成度を追求してきたんです。業界向けの仕事でも、お客さまに対しても、感性、感性でやってきたんですね」
「ぼくらの世界は、カットを勉強する時にまっすぐ切ることとか、レイヤーとか、そういうことを勉強するわけです。それで切り方とか、そういうプロセスからヘアスタイルを考えていく。するとどうしても小さくまとまっちゃうわけです。それ以外のところへはみ出せない」
「ただ、何よりも出来上がりのスタイルが大切なんだという発想を持って、最終的なスタイルをイメージした上で、そこから切り方を考えていく。するとより自由な切り方が可能になるんです。それをずっとつづけてきたわけです」
「ただね、去年くらいからインパクトのあるスタイルを発表してくる美容師さんが増えてきたんですね。で、その中でミンクスさん、次は何をやるの、みたいな視線が注がれるようになったんです」
「それまでもミンクスさんて過激だね、進んでるね、と言われつづけてきて、さらにインパクトのあるものを求められる。高橋さん、来年は何やるの、とね。じゃあその期待に応えようと、インパクトのあるものへと向かっていく。するとどうしても“つくられた頭”へと走っていくようになる。つくり過ぎの頭というか、スタイリング」
「でね、ちょっと待てよ、と。次の、次の、というかたちでより芸術的なスタイルを追求していくと、どうしてもつくり過ぎの頭に走りがちになってしまう。これはちょっとヤバいよ、と。考え始めたわけです」
「ぼくたちの本当にやりたいことって何だろう。ルーツって何だろう、とね。考えた結果、辿り着いたのが“切る”ってことだった」
ヘアスタイルの最先端を疾走し、つねに新しい提案をつづけてきた彼が、今年到達したコンセプトが『切る』ことだったというのは、注目に値する。
彼は先へ先へと走りながら、いつの間にか美容の原点に戻っていたのだ。
自己主張を始めた1989年の成功と反省
「同じ美容師さんの中でもヘアメイクやったり、メイクをやっていろんなかわいい頭をつくってる方もいらっしゃるけど、ぼくにとってのルーツは“切る”ということ。切ってヘアデザインを考えるというのが一番大きな美容師としての仕事の仕方なんですね」
「じゃあ、もう少し今度は自分たちの仕事に対して裏付けをつけよう、と。切り方や考え方の理論と哲学を見つめ直して、もう一度分析してみよう。つくり込んだ頭ではなく、洗いざらしでこれだけインパクトのあるスタイルができるんだよ、という表現をしよう」
「今まで積み上げてきた理論の上でつくりあげるヘアスタイルは、カットだけでこんなに人に見せられる仕事ができるんだよ、ということを、今年1年間やっていこう。それがCONTENTSなんです」
『MINX』の今年のテーマは、“切る”ことに戻って、シンプルな発想のもとに多彩なデザインを提案していくこと。そしてそれぞれの技術とスタイルに、理論と哲学の裏付けを与えていくことである。
「ぼくは毎年、年末に翌年のコンセプトを考えることにしているんですね。というのは、雑誌とかそういうところで仕事をしていると、毎年聞かれるわけですよ。ミンクスさん、来年はどんなコンセプトで行きますか、とね。で、ちょうど年末はぼくも何か新しい方針やコンセプトを考えるリズムに重なる。だから毎年、考えてきた」
彼がコンセプトを発表し始めてから今年で6年目になる。
最初は1989年。下北沢にひとつめの店舗を出して5年目のことであった。
「自己主張を始めて最初に出したのが『バウヘアー』。バウというのは吠える、叫ぶという意味なんですけど、当時、日本人の黒髪にももっと変わった質感がないかなと考えていた。それでぼくらは『ねじりタイトロープ編み』を始めた。髪の毛をねじっちゃって、編み込んでつくるパーマ。いわゆるドレッド風のスタイル。それがたまたまドレッドが一番おしゃれな頭だという時代に重なったんです」
『MINX』のドレッドは、たちまち流行の最先端を行く若者たちの熱狂的な支持を得た。
「すっごいヒットしましてね。美容師さんの中にもそういう髪型をしたがるコがすごく多くて、もう店の前には長蛇の列。ドッと押し寄せてきたんです」
『MINX』は、一躍流行のトップに踊り出る。
「ただね、ぼくは途中でストップをかけたんです。お店の中で、もうヤメ、とね」
「というのは、ぼくはおしゃれなコのためだけのヘアスタイルを心掛けたつもりだったんですけど、あまりに流行ったものだから、どんな人でもドレッド、ドレッド(笑)。ジャマイカ関連の男のコや女のコが汚いジーパンはいて並ぶようになったんですよ」
「するとね、ミンクスのイメージが固まっちゃう。ドレッドの専門店みたいになっちゃう。すると次に行きにくくなっちゃうでしょ。ぼくの狙いはそれで売れたりすることじゃなくて、デザインを表に出していきたい人間だったものですから。だからもうヤメ、ヤメ。やっちゃダメ」
彼は『MINX』を、ある偏った専門店にはしたくなかった。先端のデザインを、つねに提供できる場にしたかったのだ。
そこで翌年、彼は新たなコンセプトを打ち出す。それが『ダックヘアー』であった。
質感だけでなく、それにディテールを加えること。質感を出すための技術ではなく、デザインを売り物にするために出来上がりのかたちにもこだわりたい。それが『ダックヘアー』のコンセプトであった。