SUNVALLEY 朝日光輝 美容師は資産なのに。【GENERATION】雑誌リクエストQJ2005年9月号より

本当のプロってこれなんだ

 

 

青山に行くと、朝日の仕事はアシスタントだった。お客さんがいないのだ。当然である。だから宮村につく。宮村の撮影の仕事につく。すると宮村はメイクもやっていた。

「美容師ってメイクもできるんだ」

驚きだった。やってみたい。そう思った。宮村の仕事を見た。じっと見た。筆の動き。繊細な動き。眉の描き方。少しずつ、メイク道具を揃えた。家に帰って自分の顔にメイクしてみる。そんなある日、宮村が撮影の現場で言ったのである。

「テル、メイクしといて」

 

なぜ宮村が朝日にそう言ったのかわからない。メイクができることを証明していたわけでもない。ただ、宮村は知っていたのだ。メイクに興味を持っていること。陰で努力していること。そしてセンスは悪くないこと。

 

デビューであった。相変わらず青山のサロンではお客さんがあまり来なかった。だが、朝日は雑誌でデビューする。以来、宮村は撮影の仕事があると必ず朝日にメイクを任せた。

 

宮村はヘアに専念する。そのヘアの仕事も、朝日は見つめた。そのうちにある一般誌が新人スタイリスト特集を組むという。4人の新人の競演。そのひとりに朝日光輝も選ばれた。4人のモデルのメイクはすべて宮村浩気。そのヘアスタイルが、当たった。

「なんであれをつくったのかわからないんです。いま見ると恥ずかしいんだけど、あのときはもう野性そのもの。なにも考えてなかった。雰囲気でばぁーっと。計算なんかなにもない。逆にいま、あのときに戻りたいくらい」

 

雑誌が世に出ると、いきなり朝日に予約が入り始めた。その勢いはなかなか止まらなかった。それが端緒となって『プチセブン』という雑誌の表紙の仕事が来た。宮村浩気ではない。朝日光輝に、である。モデルは深田恭子。ちょうどドラマで大ブレイクしていた。その仕事が朝日光輝の名前と実力を出版社全体に広めた。

 

さらに今度は世の中が動き始める。空前の美容師ブームへ。

美容師を主人公としたTV番組も始まった。

『シザースリーグ』。

 

当初、CS放送でスタートしたとき、『HAIR DIMENSION』の代表は朝日だった。彼は有名店の若手エースたちと対決し、2連勝を飾る。いよいよ地上波のフジテレビで本格放送。だがその放送から、『HAIR DIMENSION』の代表は朝日ではなく、萬久明に替わっていた。

「やっぱりビジュアルか。って(笑)。そうだよなぁ、なんて。だけどくやしかった。だってディメンション、それから負けつづけましたからね」

いいかげん負けすぎだよな。そろそろ朝日、行くか。そんな話が持ち上がった途端、番組は終わってしまった。

「いま思えば逆によかったな、と。へんにメディアに乗っちゃって、天狗になったら終わってた。番組を横目で見ながら、ぼくはこつこつと雑誌の仕事をつづけていて、ヘアメイクの仕事が好きになって、どんどん欲が湧いてきたんで。もしTVで持ち上げられたりしたら本当にやりたいことも見失っていたかもしれない。なにもないまま上がりすぎちゃったかもしれない」

 

当時、23歳。一般の社会人からみればまだまだ新人。

「でもやっぱ美容院入って、歳は関係ないって思ったんですよね。できるヤツが伸びる。できないヤツはそのまま。まさにその世界。だからできないヤツにはなりたくない」

その強い気持ちが、彼の未来に少しずつ影響を与えるようになる。

 

彼は一番になりたかった。同期のなかはもちろん、先輩も抜きたかった。早く宮村さんみたいに、CHIKAさんみたいになりたい。早くトップスタイリストになりたい。貧乏はイヤだ。雑誌もやりたい。お客さんの髪もいっぱい切りたい。そのためには何をしなければならないか。つねに考えて行動してきた。実践してきた。家に帰っても、雑誌を見ては切り抜く。かわいいと思った写真はすべて切り抜いて、ファイルする。毎晩見ていると頭の中にかわいいバランスのようなものが入ってくる。それが雑誌の仕事に生かされる。

 

サロンでは、彼にアシスタントはつかなかった。ある程度の数字が出せるようになるまでは、なんでもひとりでやる。シャンプーも、ブローも。

「1日10人くらいでひーひー言うな」

先輩たちは無言で伝える。

サロンのなかは場所取り合戦。一番売れてる人が、一番いい場所を使う。セット面をいくつも使う。アシスタントもたくさん使う。朝日は手伝う。スタイリストでありながらアシスタント業務を手伝う。早くお客さんを帰して、場所を空けないと自分のお客さんが入れられない。それが『HAIR DIMENSION』の掟だった。

「ようやくわかった。早くて、満足させられる技術。お客さんの時間をいただいているんだから、短い時間で最高のものを提供できなきゃ一流じゃない。本当のプロって、これなんだ」

時間をかけてゆっくりとやることが丁寧な仕事ではなかった。限られた時間のなかでどれだけベストを尽くして気に入ってもらえるか。それが本物なんだ。だからベルトコンベアのように見えても宮村さんのお客さんは減らない。むしろどんどん増えていく。青山で、実際にやってみなければ到達できない境地であった。

 

 

ゼロからの大ジャンプ

 

『HAIR DIMENSION』は、人が育つ究極の環境だった。

人は育てるのではない。環境によって育つのだ。

朝日は育った。だれよりも育った。ところが、上には先輩たちがいた。

どう考えても自分のほうががんばってる。だけど上には先輩がいた。目標であった宮村は独立。CHIKAも独立した。自分が追い抜く前に、いなくなってしまった。

 

宮村からは誘われた。周囲は当然、宮村についていくものだと思っていた。しかし朝日は行かなかった。

「行ったら、ずっと二番手じゃないですか。そんなのイヤだから。絶対に抜いてやろうと思ってたし」

 

1年ほど悩んでいた。宮村の誘いに、ではない。上にはいつも先輩たちがいることに。なかなか認めてもらえないことに。

宮村さんと勝負するなら、まずは『HAIR DIMENSION』で1番にならなきゃ。そんな想いがあった。かといって独立する気持ちもなかった。できるとも思えなかった。なにしろ自分は計算ができない。経営なんてできるわけがない。

 

そんな朝日に、ある男が声をかけた。岩田卓郎。プロデューサー。

彼はあたらしい美容室をつくろうと考えていた。既成概念にとらわれない美容室。業界の旧習に縛られない美容室。なにより日本の美容師をインターナショナルなステージに立たせたい。アジアで、世界で活躍してほしい。それが願いだった。そこにビジネスチャンスを見ていた。

 

岩田と会った朝日は、まったくあたらしい世界を知る。美容業界の外の世界。ビジネスの世界。実業の世界。社会のなかの企業。世界の動き。

それまで美容界で会っただれよりも、枠が大きかった。

5年後、10年後、20年後の話も聞いた。

朝日は想った。あぁこの人だったら一緒にがんばれる。

「高くジャンプしたかったら、途中から中途半端にジャンプするんじゃなくて、ゼロから大ジャンプすればいい」

岩田の言葉に朝日は奮い立った。

 

>美容師にできること

 

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