核心をとらえるユニークな視点で、 美容業界に新風を吹かせる ーTHE GENERATION ALIVE西川礼一さんー

情熱の矛先を変える

 

 

スタイリストになり、次にめざしたのは、店長のポジションだ。そして、その先にはディレクターという目標を掲げていた。

 「そこはブレなかったので、自分でも『なりたいです』と遠慮なく公言してたんですよ。でも、お前すげーな、そんなこと言っちゃうんだ?って周りに驚かれて。でも、僕じゃダメですか?みたいな(笑)」

 そんな真正直さから、先輩ともよく喧嘩になった。西川を思いやって助言してくれた先輩にも、邪魔されたと感じると牙をむく。その対応は、後輩に対しても同じだった。

 「人間性に若干乱暴なところがあったんだと思うんです。他人からの意見に対してもそう。まぁ、僕の器不足なんですけどね」

 結局、店長に抜擢されることはないまま、西川は二十八歳になっていた。毎日のサロンワークの中で、日々改善したほうがいい点を常に考えていたが、人気絶頂のサロンを根本からひっくり返すことはなかなか難しい。次第に、その情熱を新しい店づくりに使おうかと考えるようになる。一年ほど考え抜き、やがて独立を決断した。

 「結果的に店長にもなれず辞めていくことになっちゃったけど、ここでの八年半は、同期、先輩、後輩に本当に恵まれました。生意気だったのにちゃんと接してくれて、育てようとしてくれる人ばかりで。もちろん孤独感とかいろいろ感じながらやっていた部分もあったけど、今でも飲みに行ったら延々と話が尽きない仲間ばかりですよ」

 西川はこのサロンで貴重な仲間と人生経験を経て退社。その後は半年間フリーランスとして、先輩の紹介で青山の面貸しサロンで働き、開業資金を貯めた。

 そして二○一二年五月、ニューヨーク帰りのスタイリストUTA(現在ALIVEのディレクター)と、元同僚のアシスタントと三人で「ALIVE omotesando」をスタートさせる。場所を表参道にしたのは、専門学校時代にここを目指してこの世界に入ったからだ。「たとえ食えなくても、頑張れる場所でやりたい」。これが、西川のビジョンの原点である。

 

やりたいと思ったらやってみるべきだし、

やってみて失敗するのはいいと思う”

 

 

新人を子ども扱いしない

 

 サロンを立ち上げた年は顧客の施術に専念したが、翌年からは新卒も入れた。ALIVEでは、人材確保に中途ではなく新卒を選んでいる。

 「新人の教育が大事だというのは、以前のサロンで強く感じていたことでした。中途はルーティーンを叩き込まれた後に入ってくるから、そこからいきなりガラッと変わるのは無理じゃないですか。さらに待遇や環境を求めてくるので、思い通りにならなければ出ていく。新卒は真っ白な状態で入ってくるから環境に順応する柔軟性もあるし、変化に対応する気持ちが芽生えやすいようです」

 今年ALIVEに入社するのは八名。総スタッフ数は二十六名となる。

 「本当は十人入れたいと思っていたんです。経営的には大変かもしれないけど、人をいっぱい入れてワイワイやりたい。それって店が元気になるじゃないですか。そういうのが大事かなと思っています」と西川は目を輝かせる。

 新人教育は、入社前から始まっている。ALIVEは、美容業界では珍しい実践教育を行うサロンだ。

 「カラーは入社初日から教えます。だって美容学校でやってるし、やらせない理由がない。美容免許も持っているし。実地経験は早くさせるというのが僕の考えです。完璧な状態になってからなんて、そんなの遅すぎるじゃないですか。実践でどんどんやって、お客さまに喜んでもらえた成功体験のほうが心に残りますしね。美容業界の教育は、やらせない教育になってると思うんです。一年目だからやらせない、合格しないとやらせない、とかね。でも、みんな自分がどう輝くかしか考えてないと思うので、そのサポートはしてあげています。スタイリストになれないお店より、早くスタイリストになれるお店のほうが、単純に魅力的じゃないですか」

 だから、ALIVEではどんどんやらせる。決して子ども扱いをしない。初日からお客さまの髪を触ってもらうし、一年目でもカラーを任せる。スタッフの成長が早い理由は、この圧倒的な経験数が根底にあるのだ。

  緊張している新人に、西川は「できるよ」と背中を押す。スタッフ一人ひとりの個性を見極めて尊重し、ミスは怒らずにできたことだけを褒める。

 「こうじゃなきゃダメというのはないし、僕は昔こうだったぞと語るつもりもない。いろんな成功のやり方があるし、その人にしか出せない味が大事なので」

 そんな大きな器で見守ってきたスタッフたちは、休日もみんなで遊んだり誕生日会などをして和気あいあい。それを西川は心から嬉しく思っている。

 しかし、そんな環境でも消えていくスタッフはゼロではない。

 「もちろん、みんなにはずっといてほしいという気持ちはあります。でも、前向きに辞めていくのはウェルカムだし、逆に嫌になって辞めていく場合も一切止めません。僕は今いるスタッフにどれだけいいステージを作れるかということに全力を注ぎたいから、辞めるスタッフに対しては力を使わないというのは決めてますね」

 

 

思いを形にする

 

西川が新人教育に尽力した結果、ALIVEでは入社一年目で月間売り上げ百万、二年目で二百万以上を到達するスタープレイヤーが続々と誕生している。インスタグラムやSNSなどを上手に活用し、スタッフは若い世代をターゲットに自ら集客。その集客力が群を抜いていたことから、入社二年目で集客セミナーを開催するスタッフも生まれた。西川自身も WEB媒体やSNSを使った集客は得意分野で、参画しているオンラインサロン「NO LIMIT」では、その分野を担当しているほどだ。一体、どのように工夫しているのだろうか。

 「“外国人風カラー”など、キーワードに関しては常に敏感でありたいと思っています。僕の場合はハッシュタグでいうと“グラデーションカラー”。最近は美容師が発信するワードからトレンドが動き始めるボトムアップ型の時代になってますよね。今まではメーカーや編集部が流行を仕掛けていたんだけど、五年前くらいから現場のニーズが反映されて、“外国人風カラー”とか“グラデーションカラー”を使い続けたらそういうお店も増えてきたし、それに気づいてメーカーもそういう剤を作るようになった。現場で増えたものに対してメーカーが動き始めるという時代です。今でいうと、“フリーランス”とか“シェアサロン”っていうキーワードが大事だなと思っているので、それをいち早く形にしたかった。それで、動いたんです」

 その言葉通り、西川は昨年十一月、原宿にシェアサロン「F」を立ち上げた。これは、独立前の美容師やフリーランス美容師のステップアップとして使ってほしいと願い、オープンさせた面貸しサロンだ。

 「僕も独立前の短期間、面貸しを利用させてもらっていたんですが、これを何年も続けるのはきついなと思っていました。でも、開業資金を貯めるためにはすごく助かった。サロンに所属しながら貯められる人もいるかもしれないけど、僕みたいに一人暮らしだと貯金もできない。だから、そういう場所って大事なんじゃないかなと思って。フリーランスの人には、やっぱりステップアップしてほしいです。だから、ずっといられるような面貸しを作りたいわけじゃなくて、うまく使ってもらえたら。いろんな美容師さんと知り合えるのも楽しみです」

 

 

さらに西川は、今後スタッフが独立する可能性も視野に入れ、キャッシュポイントを増やすための取り組みを行っている。例えば、オリジナルシャンプーの販売。

 「売り上げを持っているスタッフがやめて店が傾くなら、傾かない店を作っておけばいいだけ。だったら、人を育てて物も育てようってことで、シャンプーのOEMをやろうと。プロデュースとか、そんなおこがましいものじゃないんです。僕はシンプルにネットで売れないとだめだと思ってるから、アマゾンや楽天の販売力に託しました。周りからは、絶対やめろ、売れるわけないって言われましたよ。でも、月千五百本ほど売れるんです。やってよかったなって。これから育てていきたいですね。商品はALIVEのサロン名を知らない人も買ってくれているんですが、それでいいと思ってる。シャンプーの店?って感じですよね(笑)」

 西川はこのような新たな試みを仕掛けながら、ALIVEの発展を考え、それと同時に美容業界の発展にも繋げていきたいと考えている。

 「僕は、やっちゃいけないことはないと思ってるんです。やりたいと思ったらやってみるべきだし、やってみて失敗するのはいいと思う。僕は美容師としては注目されなかったけど、独立して自分の考えが伝わり始めたり、形になったりして興味をもってもらえたりしたから、そこは伸ばしていきたいかな。今後は経営者として勝負していきたいと思ってます。今の段階ではもっとできなきゃと思ってるし、足りてないと思う気持ちがいっぱいあります。スタッフも僕に対していろんな思いがあると思いますよ。もっとこれを先にやるべきでしょ!とか(笑)。だけど、僕もいきなり変われない。感じたことをやっていきたいなというのはありますね」

 常に考えごとをしているという西川は、二○一八年、次は何を仕掛けるのか。注目の若手経営者として美容業界でスポットライトを浴び始めた彼の、今後から目が離せない。

 

 

—-Interview digest—–

 

今度はどのような

ことを目標に

していますか?

 

僕は美容師としてはダメだったので、経営者として勝負していきたいなと思っています。勤めていたときは誰もふりむいてくれず(笑)、独立してから自分の考えが伝わりだしたり、形になったりして興味をもってもらえたりしたので。感じたことをやりたいなっていうのはありますね。今はもっとできなきゃと思っているし、まだまだ足りないと思う気持ちがあります。綿密に計画して、大胆に行動していきたい。スタッフがそんな僕を見て、何かしら感じてくれたらいいなと思います。

—-

 

集客はどのように

行っていますか?

 

オープンした頃はサロンワークに専念していて、minimoなどのアプリを利用していました。1年経った頃からホットペッパーなど、いろいろやり始めました。インスタでは、キーワードに敏感でいたいと思っています。僕の場合はハッシュタグで言うと“グラデーションカラー”。メーカーや編集部が流行を作る時代にかわり、今は現場から発信して、それに対してメーカーや編集部が動き始めるという時代。変化にうまく対応しながら発信することが大事だと思います。

—-

 

独立をめざした

きっかけは?

 

この業界、独立をめざすのは自然な流れだと思うんです。僕もそうでした。最初に勤めていたサロンでは店長やディレクターをめざして頑張っていましたが、人気サロンの組織を変えるほどの力はなく、マネージメント向きという評価もされず、結局店長になれませんでした。でも、サロンワークの中で常にここはこう変えたほうがいいんじゃないかというアイデアには溢れていたので、その情熱を新しいサロンの立ち上げに向けてみようと思ったんです。

 

 

 

プロフィール
西川礼一
ALIVE 代表

1982年生まれ。高知県出身。大阪の美容専門学校を卒業後、上京。都内有名サロンで約8年間経験を積んで独立。2012年に『ALIVE omotesando』、2014年に『ALIVE harajuku』をオープン。スピーディな新人教育と集客力が注目され、昨年5月から経営オンラインサロン「NO LIMIT」に参画。全国各地でセミナーも開催している。昨年12月、原宿にシェアサロン『F』をオープンさせたばかり。

 

このインタビューは、2018年3月号 THE GENERATION next に掲載されました)

 

 

re-quest/QJ 2018年3月号(2月15日発売)表紙は、Kurumi EmondさんMiyuki Emondさん姉妹!

 

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