罪悪感を抱くほど自由で非常識な独立 -プライベートサロン LiME HAIR SALON-
「表参道病」が顔をのぞかせたけど・・・なだらかに独立の道へ
心から美容師の仕事が楽しいと思い、もう一度やろうと考えたとき、新しい葛藤が生まれました。表参道で働くか、それとも違うカタチを模索するか…ということです。
僕はかつて表参道の有名店で働いていたこともありました。専門学校を出たばかりのころは、雑誌に出て有名になり、実績を作って独立するという王道パターンをイメージしていたんです。実際に雑誌に出るようになり、街角で声をかけられることもありました。でも、有名なテーマパークに遊びにいって、知らない子から「ズマ(古木さんのニックネーム)さんですよね握手してください!」と言われたとき思ったんです。
「なんか思っていたのと違う…!」って。
うれしくないわけじゃないけど、僕は雑誌に出て有名になることを求めていたんじゃないんだと気づいたんです。それが退職した理由だったんですが、美容師を本気でやるからには、やはり表参道が王道なのではないか…という気持ちがどこかにあったのだと思います。こんな風に、どうしても表参道ブランドから離れられない症状を僕は「表参道病」と呼んでいます(笑)。
結局僕は今のプライベートサロンのやり方にたどり着くわけですが、その理由は単純なものです。日銭を稼ぐために出張カット(保健所に確認済み)をしていたのですが、そのときに感じたのは、お客さまはどこで切ろうが、満足いくサービスを受けられれば喜んでくれるということ。プロのサービスを提供すれば感謝してもらえるものなんです。
出張カットの予約がたくさん入るようになり、家賃と内装にお金を使わなくても美容師ができるという確信が生まれました。そんなとき、母からこんなことを言われたんです。「ウチの2階にシャンプー台つけちゃえば?」って。
プライベートサロン誕生! 自由すぎる毎日に罪悪感!?
中古のシャンプー台を設置して、家にあった素敵な鏡を、昔僕が使っていた学習机に乗せて…という具合に、手作り感満載のプライベートサロンが誕生しました。もちろん、保健所にも美容所としての登録申請を済ませています。胸を張って営業できる状態です。
でも、「ズマ独立したんだって? おめでとう!」と友人から言われても、「あ、ありがとう」と困惑しながら答えていました。一般的な独立のイメージと違いすぎて、目の前で起きていることに、自分の頭がついていかなったんですよ(笑)。これが独立と言えるものなのかわかりませんでした。
サロンオープン後は、自由すぎる毎日が待っていました。極端な話、家賃や経費を抜いて考えても、1日1人か2人の施術をすれば、生活できるだけの収入を得られるんですよね。空いた時間でゲームしたり、公園で昼寝したり…。「自由で、収入もあって…こんな生き方していていいの?」と罪悪感を抱いていた時期もありました(笑)。今はその空いた時間で、違う事業をしているので、まったくの自由時間ではないのですが、「拘束されている」という感覚はゼロです。
最初から自信をもってプライベートサロンをスタートしたわけじゃなかったのですが、しばらしくして「有名店でもなく、低価格店でも、個人店でもない、こういうパーソナルな空間を求めているお客さまがたくさんいる」と確信しました。こういうサロンがもっとあってもいいんじゃないかと思って、去年の春に僕の生き方をブログで公開してみたんです。非常識な独立スタイルなので、叩かれるかもしれないと思ったんですが、蓋を開けてみたら共感の声がたくさん届き、30歳の節目に独立開業セミナーを開くこともできました。
振り返ると、独立に一番必要なのは、お金でも技術でもなく、一歩踏み出す勇気だったと思います。僕がオリンピック選手に背中を押されたときのように、一歩踏み出せば、運命が回り始めるものです。それに気づいたからこそ、今度は僕が、ほかの美容師さんの背中を押すお手伝いができればと願っています。
- プロフィール
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LiME HAIR SALON
古木 数馬(ふるき かずま)
横浜市出身。KBKビューティカレッジ卒業。表参道サロンapishに務めた後、代官山のサロンへ。紆余曲折を経てプライベートサロンを設立。2014年にはITベンチャー、LiME株式会社設立。スマートフォンアプリ「LiME」を制作。現在は、ヘアメイク・美容商材商品開発&技術開発・美容師セミナー講師・高校の美容科通信講師などさまざまな活動をしている。
(取材・文/外山 武史 撮影/菊池 麻美)
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