機械人間だった僕に“家族”を教えてくれたサロン —grico 宮永えいとさんの「このサロンで働く理由」—
次世代のサロンのリーダーを期待される若手スタイリストに聞く「このサロンで働く理由」。新シリーズの第1回は、grico初の生え抜きスタイリスト・宮永えいと(みやながえいと)さんを訪ねました。宮永さんにとってgrico代表のエザキヨシタカさんとの出会いは、それまでの人生観をも揺るがす大きな出来事だったそう。憧れられる人と場所と出会うことで、美容師の人生はこれだけ大きく動くのです。
人を蹴落としてでも生き抜く。そういうものだと思っていた
なんでそう思えるんだろう? はじめてエザキの話を聞いたときは頭の中にハテナしか浮かびませんでした。美容学校時代にお客としてgricoに行ったときのことです。
僕が育ったのは東京で、時代は平成。家庭的にもお互い我関せずという空気が流れているような環境でした。しかも中学、高校と受験勉強漬けだった僕。人を蹴落としてでも人に勝たねばならぬというのが僕にとっての生きる術であり、常識でした。
そもそも他人に対して興味なんて、抱いたことがなかったんですよね。
なのにエザキは施術をしている最中ずっと人のことを考えている……というか、そういう話を聞かせてくれたんです。お客さまやスタッフのことを1年に1回しか会えない実際の家族と同様、もしくはそれ以上に「家族」だと思っていること。その家族を幸せにするために働いていること。当時はカットメニューだけでも1人1時間の枠をとっていて、売上げよりもお客さまのことを最優先に考えていること。
正直そのときは綺麗ごとじゃないかと思っていました。
誰かに憧れるなんてはじめてだった
家に帰ってからもずっとエザキが話していたことが頭から離れませんでした。お客さまを幸せにする美容師像。自分のためではなく、人のために働く人生。それらは僕が美容師という職業に抱いていた格好よさやきらびやかさといったイメージとはまったく違う、はじめて知るものでした。
たぶんそのときに人生ではじめて僕は人に興味を持ち、人に憧れたんです。
エザキの話が綺麗事じゃなかったというのは、gricoに入社してすぐに実感しました。でもだからといって自分自身もすぐにそうなれたわけではありません。「家族」という感覚が薄かった僕がスタッフやお客さまを心の底から思い、行動できるようになるにはけっこう時間がかかりました。