びよう道 vol.6 U-REALM会長 高木裕介さん 〜みんなが修業に没頭できる環境を、僕たちが創っていくべきなんだ〜
37歳であえてPEEK-A-BOOのカットスクールに通った理由
地方でセミナーをしたとき、開催後の受講者アンケートを必ず読むようにしていました。50人のセミナーだと、大体48人くらいは「よかった」と回答してくれます。でも、必ず1人か2人は「よくわからない」と回答していたんです。どこのセミナーでも同じだったので、どうしてわからないのか考えるようになりました。そして、僕と受講者の技術の土台が違うことに気が付いたんです。
とくに地方ではヴィダル・サスーンの流れを汲むカット技術が基本。ピシッとした表現が得意なカットです。一方で、僕が教えていたのはAFLOAT仕込みの柔らかい表現が得意なカット。だからあえて、37歳くらいから、PEEK-A-BOOのカットスクールに通ったんです。スクールで学んだおかげで、技術の土台の違いを踏まえて教えられるようになりました。
アシスタント時代に優香さんにお世話になったのと同じように、たくさんの素敵な方と仕事をさせていただいたことも、今の自分につながっていると思います。忘れられないのは28歳から6年間くらいヘアメイクを担当させてもらったSMAPのみなさん。国民的アイドルですから、毎日のようにテレビ番組の収録がありますし、CMの撮影もありますから、本当に忙しかったです。
メンバー全員のヘアメイクをすることもあれば、メンバー一人だけのときもあったので、まったく休みがありませんでした。大晦日や正月も特番があるし、ゆっくり休むなんてありえなかったんですよね。だから、よく冗談半分で「SMAPより忙しい」って言っていたんですよ。
結局、あまりにも忙しすぎたので、サロンの経営に支障が出ないように、ほかの方へ引き継いだのですが、美容師人生のなかで一度や二度、とてつもなく忙しい時期があってもいいんじゃないのかなって思います。
みんなが修業に打ち込める環境をつくりたい
自分と同じような経験を今の若い美容師ができるかと言えば、当時と環境がまったく違うから難しいですね。低価格サロンやシェアサロンが急増しているからです。高単価サロンで技術を学んだあと、低価格サロンやシェアサロンに移る人も多いから、技術の差は縮まっています。だから、お客さまは価格の安いほうに流れがちになる。そうなると、月500万円とかそのレベルの売上をつくるのは難しくなります。
低価格サロンやシェアサロンを否定するつもりはありませんが、今の流れが続くと技術を学べる場所がどんどん減ってしまいます。理由はシンプルで、教育しないと人は育たないからです。しばらくは今の状態が続いてもいいかもしれません。でも5年後、10年後はどうでしょうか。僕は美容業界全体の技術レベルが地盤沈下してしまうんじゃないか、という危機感を覚えています。
SNSなどを眺めても、「働きすぎ」「無理はしなくていい」という風潮があると思います。でも僕は、美容業界にいる人たちにはもう一度、修業の大切さを思い出してほしい。きっと、この考えに共感してくれる人は多いと思います。けれど、行動が伴っていないオーナーがあまりにも多い。今もまだ社会保険に加入しなくてもいいように抜け道を探したり、休日出勤を当たり前のようにとらえているサロンもあります。そんな状態じゃ、口でいくら修業が大切だっていっても伝わらないですよ。美容師が安心して修業できる環境をつくることが急務だと思います。美容師が没頭できる環境をつくることが僕たちの役目なんですよ。
一方で、若い人たちには最初から楽なほうに流れるなと言いたい。楽そうに見える道は、どんどん細くなって最後は行き止まりになります。40歳すぎて体力が落ちて、腰も痛くなってきたときに、人に伝えられるものがなにもなかったら居場所を失うでしょう。今、これを読むあなたがどういう環境にいるかわかりませんが「変わるのなら今」です。
- プロフィール
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U-REALM
会長/高木 裕介(たかぎ ゆうすけ)
現在15店舗を展開するU-REALMグループ会長。北海道出身。山野美容専門学校卒後、原宿サロンを経て、AFLOATオープニングスタッフとして参加。2002年10月afloat-fがオープンし、店長に抜擢される。AFLOATを円満退社し、2005年に独立。サロンワーク以外に軸足を置きながらファッション誌の表紙やTVCMなどのヘアメイクを担当しタレントやモデル、さらにはスポーツ選手やメジャーリーガーなどにも支持されている。美容師同士のコミュニティ「東京ブレンド」を立ち上げるなど美容業界の発展を目指す。
(文/外山 武史 撮影/菊池 麻美)