びよう道 vol.4 LIM総括ディレクターカンタロウさん 〜修業が終わったと思った瞬間、また次の修業がはじまる〜
とにかく美容に夢中で、修業が苦しいと思ったことはなかった
僕は高校卒業後、福岡から大阪に出てきてLIMに拾ってもらい、美容の楽しさやすばらしさを教えてもらいました。通信科で学んで美容の世界に入り、最初にお世話になったサロンは、給与や待遇だけを見て決めました。イメージしていた美容の世界とのギャップを感じて、美容が嫌になったことも。そのとき、友達に誘われていったLIMのヘアショーを見て感動したから、この世界に残ることができたんです。正直、どんなステージだったか覚えていないけれど、大阪のクラブで大音量で音楽が流れる中、髪の毛を切っている姿が格好よく見えました。「自分もこのサロンで働いて、ステージに立てるようになりたい」という夢を持たせてもらったんですよ。
僕らの時代って「修業」っていう感覚が強くて、それこそLIMに入社するときも給料がないかもしれないと思っていました。事前に親に電話して、大学に行かせるつもりで、2年間でいいから金銭的支援をしてくれないかと頼んでいたんですよ。もちろん、給料は出るから仕送りは必要なかったんですけれど。
「いいサロンに入ったら給料がないかもしれない」っていう感覚でスタートしているから、下積み時代も辛いと思わなかったですね。先輩にこき使わるとか、今辛いと言われていることを受け入れたくて入ったし、そうしないと一人前になれないと思っていたから、むしろウェルカムだったんですよ。
LIMに入ってから僕は、「ミスターストイック」って言われてました。これは美容に関することだけじゃなく、遊びも含めての話ですけど(笑)。よく当時から美容の仕事は大変ですよねって言われることが多かったんですが、他の職業と照らし合わせてみたりして「本当にこれはどこまで厳しいんかな」っていうのをいつも疑問に思っていたんです。そもそも、毎日が楽しかったし、勉強したりするのも全部自分のためだから、やらされている感じがしなかったんですよね。肉体的にも辛くなくて「そういえば徹夜とかしたことないな」と思って、あえて自分の作品撮りで徹夜になるように仕向けたこともあるくらい(笑)。ほかのことにたとえるとしたら、徹夜でドラクエするような感覚でやってきました。修業に「夢中」になれる感覚の持ち主じゃないと、上にはいけないのかもしれないですね。
「これが一流になるための道」だと信じて歩いてきた
よく誤解している子がいますが、スタイリストデビューしたら修業が終わりというわけではないです。むしろ始まりでしかない。ちなみに僕は、デビュー祝いとして雑誌の仕事をもらい、作ったスタイルが大ヒットして、お客さまが爆発的に増えたんです。「これを作った人をお願いします」って雑誌を抱えたお客さまが100人近くきました。次の号でも作品を載せてもらい、またヒットするんだけれどお客さまはほとんど新規ばかり。指名のお客さまは残るんですけれど、ペースは遅くて「俺ってハッタリなんかな」って自分で思っていました。だって、リピートしないっていうのがお客さまの評価ですから。
それからいろいろなセミナーとか他の美容室の取り組みなどを見せてもったり、自分でどんなヘアデザインが美しいのか、カッコいいのかを研究するようになりました。これも修業と言えば修業だと思うけれど、お客さまがリピートしてくれないという辛い思いを取り除くための修業だったから、苦痛ではなかったですね。
雑誌ではうまくいったとしても、最初のころはみんな下手くそなんです。静止画でうまくできたとしても、作った髪型で生活するお客さまを喜ばせることができないとダメだから。そして、それができるようになると、「本物の美容師」に近づけるんじゃないかな。修業っていうとなんか苦しい感じに聞こえるかもしれないけれど、ようは一流になるための道だと思ってやってきたんですよね。