びよう道 vol.3 Double山下 浩二さん 〜「言われたことだけやろう」と思ったら成長はそこまで。新しいことをしたいから、学ぶ意欲がわくんだ。〜
現場でかいた冷や汗の量と成長は比例する
誰かに習ったからといって、美容の技術ができるようになるわけではないんですよね。たとえば、拳銃の打ち方を学校で習ったら戦場に行って実践できるわけじゃないでしょう? やっぱり危ないところに行って、どうやって隠れて身を守りながら戦うかとか、考えながらやらないとすぐにやられてしまいます。現場で冷や汗をたくさんかくことによって、学ぶことが大事なんです。これは美容師も同じ。お客さまの髪をちゃんと作ろうと思えば「ここは慎重に切ろう」とか「ここはそんなに難しくない」など見えてくるものがあるんです。なんとなく練習しているのならやめたほうがいい。変なクセがついてしまうこともありますしね。
僕自身も、現場で学んできました。大阪で1年半、鹿児島で1年半の下積みをして、上京。最初に勤めていたのは、原宿の竹下通り沿いにある美容室。そこには学生さんや外国人がたくさん訪れて、いつも忙しかったんですよ。そして、入って3日目に突然、「山下くん、髪をカットできる?」と言われたんです。ペーパーのほうの紙は切ったことあるから、「切ったことはあります」と答えると、「じゃあ、あのお客さんに入って」と言われました。ウィッグは切ったことがあるけれど、人の髪を切るのは初めてのようなもの。お客さまは「坂本龍一さんみたいな髪型にしたい」と言っていたので、坂本龍一さんの写真を探して「わかりました」と。それで、1時間半、冷や汗をかきながら坂本龍一さんのテクノカットをつくったんですよね。
お客さまも満足していたし、ほっと胸をなでおろしていたのですが、あとで店長に呼びだされて「お前にはポリシーってものがないのか」と叱られました。「いや、お客さまがああいう頭にしたいと言っていたんですよ」と答えたら、「お前はお客さんの言いなりなのか?」と言われて、(うわ…絡まれている)って思ったことを覚えています(笑)。奇抜なものを好むお客さまが多かったので、その後も刈り上げに名前を刈り入れたり、7色に髪を染めたり、いろいろな髪型をつくりましたね。ヘアカットというよりは、図画工作に近い感覚でした。
足りない技術は一晩でモノにする
髪を切ってカタチをつくるだけならそんなに難しいものではないのですが、それを似合わせることはとても難しいです。若くてかわいい子は、誰が切っても大体似合うけれど、大人になるとそうはいかない。竹下通りのお店を辞めて、ZUSSOというお店に入ってから「どうしたら似合わせられるのか」をよく考えて、技術の幅を広げていきました。
あの人には似合うけれど、この人には似合わないということがたくさんあったし、自分がいいと思ったものに対してお客さまのリアクションがイマイチだったこともありましたね。前のサロンでは、剃ったり、刈ったりすることが多かったのですが、ZUSSOでロングのヘアをつくったり、カーラーを巻いたりしているうちに「俺は結構、こっちのスタイルの方が好きかもしれない」と思えるようになってきたんです。
仕事をしていく上で、足りない技術があれば1日で習得する。ワインディングやシャンプーを習得するのには反復練習が必要だから何カ月もかかりますが、それ以外は一晩でできると僕は思っています。 「ルージュが引けない」と思ったら、引けるようになるまでやる。プロなら次の日にはできるようにしておく。ただし、プロの世界は騙せないですから、本気でモノにしなくちゃだめです。
正直、今は無駄な練習が多いと思います。そんなことしているなら帰って寝たほうがいい。それよりも、映画を観たり、音楽を聴いたりしたほうが価値がありますよ。それで、「映画の中に出てきたあの髪型いいな、つくってみたい」と思ったら、実際にやってみる。闇雲に練習するよりも、そっちのほうがよほどうまくなります。
>たとえお客さまのリクエストだとしても古臭いデザインはしない