びよう道Vol.25 Michio Nozawa HAIR SALON 野沢道生さん〜1日50人切っていたあの時代の舞台裏〜
“ヘアデザイン”はアートではなくデザインである以上、実用的であるべき
技術を前向きに覚えていくことと同じくらい大切なのが、その技術をどのように活かすのかということ。ヘアデザインというのは、デザインである以上、実用的でなくてはいけません。例えば、“灰皿”。煙草を置くためのくぼみがついていて、灰を落とせるスペースがあり、洗える素材になっていますよね。目的に合った形に作られています。ヘアデザインも、エレガントなものでもクールなものでも、どこをどう切ればその形になるのか、技術を活用する目的があります。さらに、そのお客さまの髪質や毛流れ、毛量を活かせているのか、お客さまの良さを本当に引き出しているのか? 理論をわかった上で施術している美容師は強いと思いますよ。「1カ月後もはねないように切る」「動きを出すために切っている」など、再現性もプラスアルファしてお客さまに想像の2倍も3倍も喜んで帰っていただくというのが本当のプロフェッショナルです。
手前味噌ではありますが、今の私のカット料金は1万5000円。日本の美容師では高い方です。それでも、美容人生37年目の今も朝から夜まで予約がびっしり入っているのは、お客さまの満足度を引き出せているからだと自負しています。
1日50人の予約があったカリスマ美容師ブーム、当時の裏側は?
僕は、テレビ出演も多かったので、美容師としては特殊なタイプだと思います。カリスマ美容師ブームのときは、1日50人ものお客さまが来店されていたことも。「どのお客さまもハッピーにして差し上げたい」「きれいにして差し上げたい」という挑戦心でレセプション担当にも「予約は断らないように」と言っていました。
良いことなのか悪いことなのかはわからないけれど、来店されたときの髪型がそのお客さまに似合っていると思ったら「十分おきれいで似合っているし、毛先もまだ整っているから前髪カットだけでもいいんじゃないですか」なんて提案することもありました。今とは時勢も違って、「昨日別の美容室行ったんだけど、今日野沢さんの予約取れたから来ちゃいました」なんていう人もいたんですよ。そんな時はシャンプーブローだけしたり、前髪だけ切ったりして1カ月後の予約を取って帰ってもらうこともありました。
でも、正直、「自分の意見を通してしまったけど、お客さまは満足してくれただろうか?」と、不安になることもありました。だからそんな時は私は最後に「これで良かったですか?」と正直に聞いてしまうんです。そうすれば、「やっぱりもう少し切ってほしい」「本当はこの部分が気になっていて…」と、お客さまも心を開いてくれるというものです。