びよう道 vol.24 UMiTOS 砂原由弥さん 〜メディアの感性にはたった一つの正解がある。なんとなくの「ニュアンス」じゃ伝わらない。〜
「メディアの感性には正解がある」 だから「なんとなく」は通用しない
月500万円の売上を維持するために1日38人切っていた時期もあります。アシスタントの数も限られているけれど、その中でやるしかない。予約は15分単位だから、シャンプーからやっていたら間に合わないんですよ。だからシャンプーしないで始めるとか、普通じゃない方法でどうにかしていました。
セットする時間もないから、アシスタントがドライヤーで乾かしただけでキマるようにしなくちゃいけない。「再現性のあるヘア」といえば聞こえはいいけど、実際は苦し紛れの産物ですよね(笑)。38人もやると家に帰る時にはもうフラフラで、手が震えちゃって鍵穴に鍵を差し込めないこともありました。
ヘアメイクの仕事では、20代のまだひよっこの私が、一流の監督やアクター、アートディレクター、クリエイティブディレクターと同じ舞台に引き上げられてしまいました。一流のプロたちを前に、「なんとなく」とか「ニュアンス」とか通用しないんですよ。
一つひとつの撮影に、たった一つの答えがあるんです。だから私は「メディアの感性には正解がある」と断言しています。そして、その一つの正解を導き出して、プロたちに伝えて、理解してもらわなくてはいけない。ヘアメイクって、たった一つの答えを証明していく仕事なんです。
その上で、自分にしか入れられない「ねじれ」のような小さな違和感をわざと見せて、自分の名前を置いておく。その場で自分の印象を残せないようでは、次の現場で呼ばれない。ヒリヒリした現場を経験することで、仕事の厚みが生まれたと思います。
その人が個性を獲得するまで付き合うから「生涯顧客」になる
サロンワークも正解は一つです。例えば、お客さまの1年後、どういう人生を歩んでいるのか、考え抜いて、リアルに落とし込む。このプロセスを私は相手を「纏う(まとう)」と言っています。その人にしか見えないものをつかむためには、その人自身になるしかない。それを楽しんでやっています。
例えば、大学の先生を目指すお客さまが、面接の直前に髪を切りにきたことがあります。見た目の印象はすごく大事だから、その場やその立場をわきまえて正解を導きます。ヘアメイクの場合は撮影の目的があるからそこからもヒントを得られますが、サロンワークの場合はお客さまの人生を纏い獲得し、個性を獲得するまで付き合う。だから生涯顧客になるんです。
>強いこだわりがあれば「針穴に糸を通すような秘策」が出てくる