びよう道 vol. 19 stair:case 中村太輔さん 〜カラーリストという職業を確立させるために走り続けてきた。ヘアカラーの文化が日本に根付くまでは止まれない〜

凡人である自分を否定しまくって新しいアイディアを捻り出してきた

 

 

もしかしたら、僕はいつも新しいものを提案しているパイオニア的な感じに見られているのかもしれません。でも僕は全くもって凡人なので、普通のアイディアしか出てこないんです。だから、ひたすら凡人の自分のアイディアを否定する。誰でもできそうなことをしても、そこに新しさはないからです。ダメダメダメ!と否定して、苦し紛れに出てきたものが非現実的でちょっぴり新しいものだったりするんですよ。

 

前職の時代からいくつもハードルは超えてきたんですが、また次のハードルがすぐやってきます。独立したらいよいよ一人前になれるかなと思っていたんですが、独立したら今度は経営者として1年生じゃないですか。再び、初心に戻った感覚でしたね。

 

独立してびっくりするくらい、いろいろな意味で自分が甘いことがわかりました。僕は同じサロンで20年以上過ごしてきたから、そこに染まっている部分があったのだと思います。

 

 

独立後はいろいろなサロンで経験を積んできた、価値観の異なるスタッフが集まってサロンをつくっていくわけです。できるだけ新しいエッセンスを取り入れて、前職のサロンを超えたいと思っていたので、みんなのアイディアをたくさん取り入れました。そうしたら自分にできないことが本当に多くて。例えば、お客さまを褒めること。これまでは「いいものをつくって当たり前だからお客さまを褒める必要がない」と言われて育ってきましたが、お客さまは褒められたほうが嬉しいわけです。だから、自分も褒めるようにしたんですが、自然に褒められるようになるまで1年以上くらいかかりました。

 

また、経営者としてビジネスの視点が欠けていることも思い知らされました。いいものをつくることだけで満足してはダメで、「それで結局、いくら利益を出せるのか」。そこまで考えられていなかったです。だからとても、いま自分が一人前とは思えません。

 

日本人のヘアカラーに対する価値観が変わったら少し満足できるかも

 

 

ヘアカラーに関しても同じです。自信がないわけじゃないけど、まだ全然伸びしろがあると思っています。薬剤もどんどん新しいものが生み出されていますし…多分、満足することはないんだろうなって思っています。

 

そもそも僕には、「カラーリストって何?」という空気の中で職業として確立させなくてはいけないっていう不安がずっとありました。今もどちらかというとカラーはアシスタントがやるっていうのが普通ですから。でも、海外ではカラーリストが活躍していると聞いていたので、なんとか日本でも職業として根付かせたいと思ってやってきました。

 

 

もし自分が一人前だと思える時がやってくるとしたら、それは自己表現のひとつとして自然にヘアカラーが使われる世の中になった時かもしれません。海外ではアナウンサーの方も真っ赤な髪をしていたり、キレイなハイライトが入っていたりと個性を出しているじゃないですか。

 

だから僕が引退するまでの間に、もっと自由に髪で個性を表現する世の中になっていたら嬉しい。そのためにも日々の活動を通じて、日本のヘアカラーに対する価値観を変えて、ヘアカラーの文化をつくっていけたらなと。ヘアカラーに対する価値観の変化を実感できたとき、ようやく「ちょっとは貢献できたかな」と満足できるかもしれないですね。

 

 

 

プロフィール
stair:case  https://staircase-ginza.com/
中村 太輔 (なかむら だいすけ)

ヘアカラー業界の先端を走り続けてきた、日本屈指のトップカラーリスト。カラー剤の開発や国内外でセミナーを行うほか、各コンペティションの審査員も長年勤めている。色彩を巧みに操る高度なテクニックとセンスで、国内外に熱烈なファンを抱える。十八番は、来店ごとに色を継ぎ足し、年月の経過とともに奥行きを与え続ける多色染め。白髪を隠すための染髪ではなく、白髪をデザインの一部として利用する”テクニカルグレイヘア”も、絶大な支持を集めている。

 

(文/外山 武史 撮影/菊池麻美)

 

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