びよう道 vol.14 Cocoon VANさん 〜美容師を天職だと思ったことはないし、自分がヘタクソだってことを片時も忘れたことはない〜
二人の師匠から言われた、一字一句違わぬダメ出しの言葉
僕はDoubleの山下さんとDaBの八木岡さんという二人に幸いにも教わることができました。その二人からまったく同じことを言われたことがあるんですよ。言われたタイミングも違えば、それぞれ師匠の考え方も性格もまったく似ていないタイプなんだけど、「バンちゃんはハナ(最初)はいいんだけど、ツメがいつも甘い」って一字一句同じ言葉を言われたんだよね。
ようは自分の仕事にOKを出す基準が低すぎるということ。二人の師匠にまったく同じことを言われたということは、僕の仕事はよほど軽かったのだと思う。
師匠に厳しく言われたその時は辛かったけれど、今は感謝しかないですよ。今でもね、しょっちゅう「これは絶対に師匠だったらOKって言わねーぞ」とか思うわけ。「まだまだだ」って思えるから、僕は美容師を続けていけるんだと思う。
表層的な薄っぺらい自分を徹底的に叩きのめしてくれた師匠に出会えたから、いくつになっても僕は自分に厳しくいられる。これは幸運だったと思う。いつまでたっても自分の仕事に高い点数を与えられないよね。コンテストで賞をとっても、お客さまに喜ばれても、それはそれでもちろん嬉しいんだけど、まだまだだと感じる。自分がヘタクソであることを、ずっと忘れちゃいけないって思っています。
できる限りミニマムに、デザインレスを目指していく
仕事のポリシーは、デザインとファッションの違いをちゃんと理解して仕事をするということ。それぞれの領域をきちっとふまえておきたいと思っています。
僕は総じて、デザインとか似合わせっていう言葉が好きじゃないんです。なぜかというと、それって不確かなものだから。スタート地点がどこだかわからないし、つくる人の名前だったり、好みだったり、いろいろなものが加味されて、いいとか悪いとか評価されるじゃないですか。音楽に例えると、メジャーなミュージシャン以外にも、いい歌を歌う人がいっぱいいるわけじゃないですか。なのに、評価されないっていうのは多々ある。似たようなことはヘアにも当てはまると思うんだ。
たとえば、SNSで自分を売り出すのが上手な人のデザインが、本当に優れているとは限らないわけで。最近では、自分を飾ることが上手い人を、オシャレっていう風潮もあると思う。さっきも話したけど、装飾っていうのは表層的なものなんだよ。デザインをその浅いところで捉えてはいけない。デザインっていうのは流行っているものを作ることじゃないんです。少なくとも僕は、そういう表層的じゃないところで仕事をしたい。お客さまの髪をカットして、次に来店する2ヶ月先のことまで考えて、どれだけ生活にフィットするヘアをつくることができるのかっていうのが、僕が考えるデザインだから。サロンで出来上がったヘアスタイルが良ければいいで終わらないんです。
だから、そういうことを考えていると、「スタイリングをしないほうがいいんじゃないか」とか、「ノンブローのほうがいいに決まってるじゃん」とか、考えるようになるわけ。もちろん、お客さまがスタイリング剤をつけたいっていう場合はつけるよ。でも普段使っていないんだったら、使わないに越したことはないわけで。
こんな感じで、自分が解釈するデザインというのは、どんどんデザインレスになっている。足し算を経て、引き算をしていく中で、できる限りミニマムに、最小限なことしかしないようになっています。どこをどう切るかじゃなくて、どこをどう残すかっていう考え方なんですよ。