びよう道 vol.10 SORA 北原 義紀さん 〜いくらネットで検索しても、自分のアイデンティティは確立できない〜
美容室でも待遇や休日が大切と言われる時代。もちろんそれも大切ですが、美容人生のどこかでは“心も体も美容でいっぱい”という時期があってもよいかもしれません。
「びよう道(みち)」は、そんな地道で壮大な鍛錬の道を歩んできた“美容の哲人”に、修業時代に一人前になったと思った瞬間や美容の哲学など、それぞれの美容の道を語っていただく連載企画です。
第10回目は、SORA北原義紀さんに、理容師の修業時代のエピソードや、美容師になってからの苦悩、若手美容師に伝えたいメッセージをお話しいただきました。すぐにスマホで検索して「答え」を求めてしまいがちな人にぜひ読んでいただきたいメッセージです。
できないことは、逃げても逃げても追いかけてくる
東京の理容室で経験した最初の3年間の修業が、今の自分を作っていると言っても過言ではありません。理容師の父の紹介で入ったそのお店には、カットコンテストの優勝経験を持っている人たちがゴロゴロいました。僕と同じように地方からきている人たちが、住み込みで働いていたんですよ。
最初のころはひたすら洗濯して、タオルを干して、乾いたものをたたむ仕事の繰り返し。寸分狂わず、ピタっと重ねていないと、お店のおじいさんに直されてしまうんです。それではもちろんダメで、一つひとつの仕事に厳しいんですよ。
昔気質のお店だったので、教育カリキュラムもありませんでした。あるとき「今日から切れるか?」と聞かれて、切り始めるような感じ。基本的に自分から動かないと仕事をもらえず、その代わり「できるか?」と聞かれてすぐに対応できれば、チャンスをつかむことができる。モタモタしてチャンスをつかみそこなったこともありました。
正直、何度もやめたいと思いました。けれど、努力を続けていけば、技術も接客もできるようになるものです。できないことから逃げても、逃げている限りずっと追いかけてくるから、しっかり向き合わないといけない。死に物狂いで勝つまでやる。あきらめずに続ければ、最後は必ず勝つんですよ。修業時代には、そんな大切なことを学びました。
在職中に角刈りのコンテストのグランプリも取りました。角刈りは短い髪でカタチにしなくちゃいけないので、すごく難しい。髪の毛の生え方や性質、頭のカタチなどすべての要素を踏まえてやらないといい角刈りにはならない。理容師の腕を問う髪型なんですよ。