びよう道 vol.1 PEEK-A-BOO・川島文夫さん 〜常に「半人前」の意識で、一生進化し続ける!〜
「一人前になった」と思った瞬間、下降線になっていく
でも、「一人前」になんか、なかなかなれませんよ。「一人前」の定義はむずかしくて、「スタイリストになったとき」とか「お客さまの支持をたくさん得られたとき」とか「店長になったとき」または「サロンを経営したとき」など、人それぞれ価値観は違うと思います。でも、人間は自分で「一人前になった」と思った瞬間、下降線になっていくのではないでしょうか。だから、ぼくは、いまだに自分が「一人前」だと思っていません。「一人前」という言葉は、もう伸びしろがないようで、いやなんです。
どんな仕事をするにしても、「何年やってもまだ半人前」と思う気持ちが大切だと思っています。厳しいかもしれませんが、自分で「一人前」と思ってしまっている人こそ、「半人前」。美容師は自己満足ではダメです。「一人前」とは、追いかけても追いかけても捕まえられないもの。いつも自分は「半人前」という謙虚な気持ちがあって、はじめてお客さまによろこばれる髪型を提供できるようになるのだと思います。
ぼくにとっての「一人前」とは、お客さまによろこばれる髪型を提供すること。そしてたくさんのお客さまや一緒に働くスタッフに支持され続けること。そうなるためには、やはり仕事に対するパッションを持ち続けないとなりません。
仮に「一人前」と思ったとしても、それは一つの通過点に過ぎません。できないことを無我夢中になって習得して「一人前」と思った瞬間に次の課題が出てきますし、世の中や、周囲の環境もどんどん変化するので、それに合わせて自分も変化していかなければなりません。それがパッションを持ち続ける原動力になっているとも言えます。今は変化のサイクルがものすごく早い時代ですし、やはり、一生勉強です。
美容の道を歩むには、核を持つことが大事
今の美容業界は、技術より、感性から入っていく部分が大きいと思います。YouTubeの動画を見て技術を覚える人もいるけれど、そうすると、誰かをリスペクトする力がなくなるように思います。自由でいいかもしれないけれど、1本の軸がないとも言えます。自分を自分の先生だと思っている人もいるけれど、それは、美容の道を極めていないから思ってしまうことです。
美容師は、骨格がないと続けていけません。汗とバイタリティをもって技術を習得すればプライドが芽生え、簡単にハサミを手放すこともできなくなります。YouTubeやSNSを見て誰かの真似をしている人と、芯のある美容師とでは、そこに大きな差が出てきてしまうのではないでしょうか。
1000人いたら1000人の考えがあり、好みがあり、スタイルのつくり方があります。どんなやり方がいいとか悪いとかということではありません。一回志した道をぶれさせないようにするためには、師匠を見つけ、基本的な技術や考え方、志を学ぶべきだと思います。これはどんな世界を極めるのでも同じことだと思います。
ぼくも美容師になった時点では軸がありませんでした。感性がよくて手先が器用で、お客さまがよろこぶ髪型をつくることができればいい、という感じでしたが、それはぼくが真に望んでいた方向と違いました。やはり、軸はほしかったんです。そこでヴィダル・サスーンという師匠に出会い、骨格・毛量・毛質をもとに論理的に髪型をデザインしていく方法に魅力を感じ、「自分がやりたかったのはこれだ!」と手応えを感じました。「髪を切る」のではなく、「髪をデザインする」という芸術的発想に、すごく影響されました。
修行時代には、できるだけ早く自分の個性や方向性を見極めることが大切だと思います。ただ漠然とではなく、どんな美容師になりたいか目標を定めて勉強していくことが大事です。目標が定まらないうちは、なんとなく時間が過ぎ、技術的にも広く浅くなってしまうので、「この道」と決めて自分の哲学をもってプロフェッショナルをめざさないといけないと思います。