HYSTERIA近藤繁一さんのびよう道 〜ロンドンで破壊の文化、パリで構築の文化に触れた。寄り道をしたからこそ見られる景色、生み出せるデザインがある。〜

 

 

美容室でも待遇や休日が大切と言われる時代。もちろんそれもいいですが、美容人生のどこかで“心も体も美容でいっぱい”という時期があってもよいかもしれません。

 

「びよう道(みち)」は、そんな地道で壮大な鍛錬の道を歩んできた“美容の哲人”に、修業時代に一人前になったと思った瞬間や美容の哲学など、それぞれの美容の道を語っていただく連載企画です。

 

今回は、HYSTERIA代表の近藤繁一(こんどうしげかず)さんです。「たった1人のための、たった1つのデザイン」をコンセプトに、「似合わせ」という言葉では表しきれないが唯一無二のデザインを提案し続け、顧客から絶大な信頼を集めています。美容師からもリスペクトされる近藤さんが、いかにして自分の道を拓いてきたのかお話いただきました。

 


 

聖子ちゃんカットや先輩の理不尽が嫌でロンドンへ飛んだ

 

 

今の若い子たちを見ていると、ゴールを設定して、最短でそこに向かうのが上手だと感じています。それはそれで悪いことではないです。でもね、僕なんかは還暦を超えた今も、まだゴールに辿り着いた感覚がないんですよ。

 

そもそも僕がヘアドレッサーになったとき、上手くなりたいという気持ちはあったけれど、明確なゴールイメージはなかったのかもしれない。だからいっぱい遠回りや寄り道をしましたけど、かえってそれが良かったんじゃないかと思いますね。

 

僕が見習いだった時代は、日本の美容業界は今よりも師弟関係を大事にしていたし、情報が少なかったんです。だから、聖子ちゃんカットやサーファーカットが流行ったらみんな同じ髪型をつくる、みたいな時代でした。僕はまだ何もできなかったくせに流行りのヘアをつくるが気乗りしなくて、「もっとカッコいいスタイルをつくりたい」と思っていたんですよね。技術のテストを合格させる代わりに、技術と全く関係ないことを先輩から要求されたこともあって、美容室で働くことが嫌になったこともありました。だからね、ほとんど現実逃避みたいな感じで、ロンドンに飛んだんですよ。

 

ロックやパンクが好きだったし、当時はドラムンベースが流行っていました。現地に行き、五感でそのカルチャーやヘアを感じとりたいと思ったんですよね。ロンドンでヘアドレッサーをやるなんていったら大決心が必要だと思われるかもしれないけれど、パスポートと話す言葉が違うくらいで、あとは同じだろうと思っていたんです。

 

ロンドンで「破壊の文化」、パリで「構築の文化」を肌で学ぶ

 

 

日本人でしかも英語が得意ではなかった自分がロンドンで認めてもらうためには、作品を見てもらうしかありませんでした。ストリートでハントしたバンドマンたちにモデルを頼んで、公園やレンガの建築物をロケ地にして撮影していましたね。ライティングの知識も何もないまま、富士フイルムで撮っていました。それが、僕にとってInstagramと同じだったのかな、と思いますね。その作品を自分の履歴書代わりにしていました。

 

僕はロンドンには破壊の文化、パリには構築の文化があると思っています。例えば、僕の尊敬するトレバ・ソルビーという著名な美容師が率いるアーティスティック・チームがヘアショーをするとき、プロモーションビデオを自分たちで撮影していたんですよ。

 

自分たちがプロデュースしたモデルさんが動く姿を撮影するじゃないですか。それをあえて手回しのスライドの映写機で、モノクロで焼いた写真をコーヒーの麻袋に映写する。それで完成ではなく、麻袋に映写する様子をさらに撮影して、それをプロモーションビデオにしていたんです。普通に撮影するんじゃなくて、何重もの工夫をしているし、常識の枠組みを壊してつくられたクリエイティブでした。違う例でいうと、パンクなんかがわかりやすいかもしれない。ヴィヴィアン・ウエストウッドは音楽とファッションの歴史を一度壊していますよね。破壊的創造をするのが、ロンドンだったんです。

 

 

次に僕はパリに渡りました。今度は「構築の文化」を学びたいと思ったんです。パリのパーティーや社交界みたいなものをイメージしてもらうとわかると思いますが、女性はエレガントなスタイルをしていますよね。そこでは脈々と続く伝統が守られている。日本の雑誌に例えるとしたらパリは赤本で、ロンドンは青本かもしれない。僕はその究極を見たかったし、五感でそれを感じることができた。これは大きかったですよね。

 

>帰国後くすぶる期間を経て、自分にしかつくれない世界観で突き抜けた

 

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