フェミニンブームの裏にロック! 自分の「好き」を細くとがらせて刺さねば淘汰される K-two塚本 繁さんのびよう道 

ロンドン仕込みの「塚本フィルター」で、独自のコンサバスタイルを生み出した

 

 

ロンドンで過ごした2年間は、僕の財産になりました。それは美容師の技術面の話だけではなく、「自分の世界観」、つまり「塚本フィルター」を固めることができた経験です。

 

帰国後、K-two(ケーツー)の大阪で働いているとき、関西発のファッション誌『カジカジ』の撮影の仕事をさせてもらっていました。『カジカジ』はストリート系ファッションだったので、ロックやパンクなど自分の好きなデザインをストレートに出せる媒体でした。

 

その後は、世の中の流れ的にはフェミニンやコンサバスタイルが人気でになってきて、『JJ』や『CanCam』で紹介されたヘアスタイルをつくったサロンに新規のお客さまが殺到するという状況になったんです。その当時はK-two(ケーツー)もフェミニンスタイルで有名になっていました。サロンの東京進出がちょうどこの頃で、社長に東京に行きたいと直訴しところ、「東京で出すならフェミニン推しのサロンで出店するけどいいか?」と言われ、迷わず自分もその系統で勝負しようと決めました。


 

自分の好きを捨てたのではなく、やりたいことをやるためには売れるしかないからです。そして、売れるためには、コンサバ系に足を突っ込むことが近道だと思いました。東京進出した後、それが突破口になり、雑誌にもスタイルが紹介されて、新規のお客さまがドドドドッと集まるように。月に800人くらい入客していた時期もあります。やがて、自分の名前が世に浸透すると、業界誌からもいろいろなジャンルの撮影依頼が増えました。そうすると「塚本さんはこういうスタイルもつくれるんだ」と新しい一面を見せるチャンスがくるものです。そうして尖ったスタイルを発信したりできるようになったんですよ。

 

自分が見つけてもらえた理由は「塚本フィルター」の効果もあると思います。コンサバやフェミニンであっても、どこかに自分の色が出ていたから、差別化ができていたんですよね。やはりロンドンで吸収したファッションやカルチャーが影響していたのだと思います。

 

 

例えば、フェミニン系のレイヤースタイルは丸みやクビレを作るためにつなげて切りますよね。僕はあえてディスコネクションで切ってくびれをつくっていました。当時は藤原紀香さんのウルフっぽいヘアが人気だったのですが、あれをつくるためには繋げないで切ろうと思っていたので。そんな風に、その時々の王道のスタイルであっても、自分のフィルターを通してつくるから、結果として目立ったのだと思います。

 

 

淘汰されない美容師になるために「好きを細く尖らせろ」

 

 

僕はスタッフに「好きを細く尖らせろ」とよく伝えています。広く浅くではなく、細く尖らせたほうが強く刺さるからです。昔からのお客さまには、僕の好きが刺さっているのだと思います。だからといって、世の中のトレンドに逆らう必要はないです。それは、お客さまを含めて、世の中に求められているものだから。

 

とはいえ、やはりトレンドばかり追いかけて、コピーできるようになっても1番にはなれません。しかも、トレンドは移り変わるものです。世の中に迎合したスタイルをつくるだけでは、賞味期限の短い美容師になってしまう。10年、20年の顧客をつくるには、やっぱり「好きを細く尖らせる」ことが大事なんです。


 

僕も美容業界歴が長くなり、スタッフを指導する立場にもなりましたが、「美容師は一生勉強」と言われるぐらいなので、自分が一人前だと思ったことがありません。いつまで美容師を続けられるかわかりませんが、65歳を一区切りとしたら、とっくに半分は過ぎています。残りの時間を何に使うのか、本当に悩んでいます。一般誌の表紙を担当したり、武道館に立ったり、そのときそのとき達成感がありましたが、それがゴールだったとは思いません。


 

人には、一人ひとり別々の「びよう道」があって、行き先は自分で決めるしかないと思うんです。後悔しないような選択をしていくことが大事だと思います。とにかく、自分がやりたいことをやっていく。やりたいことを続けていけば、次の道筋が見えてくる。

 

ただ、やりたいことをやるためには、売れなくちゃいけないし、我慢が必要なこともあるかもしれない。僕はこれからも迷い続けると思います。けれど、求められる美容師でいる自信はある。流行りの技術やヘアスタイルを求めているのではなく、「塚本の提案が好き」というお客さまがいるからです。時代がどう変わっても、自分の好きに共感し、頼ってくれるお客さまがいることを、とても幸せに感じています。

 

プロフィール
K-two 銀座
統括マネージャー
塚本 繁(つかもと しげる)さん

ロンドンでの美容留学を経て、1996年、株式会社K-twoエフェクト入社。関西の主力店舗で活躍後、東京進出の代表に就任。「JJ」「cancam」を始め有名ファッション誌、TV、コレクションで活躍。K-twoを代表するカリスマアーティスト。現在は東京代表として、新たなブランディングの構築への挑戦を続けている。

 

(文/外山 武史 撮影/菊池麻美)

 

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