先輩の技を観察し、徹底的に真似て自分のものにしてきた。 生涯美容師を誓い歩むこの道。頂はまだ見えない。 びよう道 vol. 32PEEK-A-BOO 福井達真さん

 

美容室でも待遇や休日が大切と言われる時代。もちろんそれも大切ですが、美容人生のどこかで“心も体も美容でいっぱい”という時期があってもよいかもしれません。

 

「びよう道(みち)」は、そんな地道で壮大な鍛錬の道を歩んできた“美容の哲人”に、修業時代に一人前になったと思った瞬間や美容の哲学など、それぞれの美容の道を語っていただく連載企画です。

 

第31回目は、東京を代表するヘアサロン「PEEK-A-BOO」のCCO兼アートディレクターを務める福井達真(フクイタツマサ)さん。

 

福井さんは、Japan Hairdressing Awards最優秀新人賞受賞などヘアデザインコンテストの受賞歴も多数。美容界の猛者が揃う環境で、若くしてアートディレクターに昇進し、現在はアカデミーで後進の育成にも注力している人物です。今回はそんな福井さんの今に至るまでの軌跡を辿りつつ、ご自身の描く「びよう道」を語っていただきました。

 


 

「辞めさせろ」と裏で言われるほど問題児扱いだった

 

 

僕が美容学生の頃は1年制の学校が多く、1年のインターンを経て資格を取ることが一般的でした。でも僕はあえて2年制のコースを選び、しっかり学んで卒業後に即戦力になりたいと考えていたんです。学内トップの成績をおさめて卒業し、PEEK-A-BOOに入社しました。ただ社会に出てしまえば、1年制を卒業しようが2年制を卒業しようが関係ないんですよね。

 

良くも悪くも同じ学校の1年制を卒業して入社した同期がいました。僕のほうが年上だし、学校でも目立っていたから敬語を使ってくれていたんですよね。でも、まわりのスタッフからすると「なんで同期なのに敬語なの? 2年制だからなんなの?」と見られていたようです。

先輩たちが自分に仕事を回してくれないこともありました。基礎的な技術は上手だったので「自分の仕事がとられる」「追い抜かれる」という恐怖心があったのかもしれません。しかも生意気で扱いづらい新人だったのだと思います。問題児のような扱いを受けて、1年目の終わりに、最も厳しいと言われていた前副社長の高澤光彦がいる店舗に異動しました。

 

シャンプーをおろそかにする人間は、美容師としての厚みがない

 

 

しょっぱなに高澤から「ちょっと俺の頭をシャンプーしてくれ」と言われたんです。僕は一生懸命、心を込めてシャンプーしました。そうしたら「お前、シャンプー上手いな。よし。俺がお前を鍛えるよ」と認めてくれたんです。ちなみに、高澤は事前に「福井は使えないし生意気だから辞めさせろ」と聞かされていたらしいです。

 

自分も今はシャンプーひとつで、その人が持っているセンスがある程度わかります。頭の形状に合わせて、手をフィットさせながら、どのくらいの力具合で手を動かすのか。夏場の暑いときでも気持ちのいいお湯の温度にできるとか、お客さまの身長に合わせて首の調整を1回で決めるとか、そういうホスピタリティがあらわれる仕事なんです。

 

そもそも、10本の指でお客さまの頭を触れる機会はシャンプーだけ。ほかの施術で直接頭に触れることはありませんから。だから、シャンプーを通じてたくさんのお客さまの頭を触った経験は、カットの上達にもつながります。シャンプーをないがしろにする人もいますが、ここをすっ飛ばしてしまうと、全てが中途半端で厚みがない美容師になるんじゃないですかね。

 

今だからわかる「初めてのお客さま」が再指名しなかった理由

 

 

デビューして最初のお客さまの髪を切ったときのことは今も覚えています。オーダーは今でいうハンサムボブのようなスタイル。自信満々でカットしたのに、お客さまの顔を見ると喜んでいない。その後、そのお客さまから指名されることはありませんでした。今振り返ると、お客さまの年代にしては硬すぎるフォルムだったかなと。きっちり切ることはできていたけれど、似合わせることができていなかったんですね。カットの断面が美しければキレイ、ラインが真っ直ぐだからキレイとかではない。もう少し鏡を見ながら会話できたら、違う結果になっていたのかなと思います。

 

 

高澤の元でベーシックカットを学んだ後、現在アートディレクターで当時原宿店にいた山内 政人からデザインを学びました。山内は自分の内側にとことん問いかけて、斬新なデザインを生み出す求道者のような人。コミュニケーションをもとに唯一無二の「パーソナルデザイン」を提供していました。間近でその仕事ぶりを見て、「山内さん。あのお客さまのときどうしてここから切ったんですか。もう少し長めに設定すると思ったんですが短かったですね」などと質問の内容も深くなっていきました。山内も僕がカットを見ているのを知っているから、わざと驚くようなところから切って見せたりするんですよ。いつも素晴らしいデザインを生み出すけれど、切っている最中は完成形が見えない。お客さまもそれを楽しんでいるような感じでした。

 

>お客さまを笑顔にするヒントは、Abbeyの松永さんから学んだ

 

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