びよう道 vol.29 CANNAN 長崎英広さん 〜どんな仕事でも相手に「喜び」と「衝撃」を与える。これを続ければ必ず「選ばれる人」になれる〜
お客さまとの記念日をつくり、戦略的にメニューアップ
MINXは当時日本最大級の店舗を原宿駅前にオープンしました。錚々たる顔ぶれのオープニングスタッフの中に僕も選ばれたんです。3、4年前は田舎で働いていた美容師ですから、自分が働くことになる原宿店を初めて見たときは足が震えましたね。
原宿店には青山や広尾などの店舗からきたスタイリストもいました。それぞれ顧客を抱えているわけですが、青山店や広尾店、渋谷店のお客さまは明らかに単価が高いんですよ。根元が1cm伸びているだけなのに「伸びているからカラーしましょう」というと二つ返事で「お願いします」となる。下北沢のお客さまは、そうはいかない。
伸びていても「今日はカットだけのつもりで来たから」と言ってやってくれない。1、2年かけて少しずつ顧客さまの価値観を変える工夫をしました。具体的には、1年計画で2カ月に1度、来店していただくようにします。6回来たら「1周年の記念日ですね」と。そのタイミングで、少しずつメニューアップをする。1年通い続けてくださったお客さまは、簡単には離れないという経験則もあったからできたことです。
業界誌の編集長にも衝撃を与える
当時のギャルのトレンドが、真っ白のブリーチヘアでしたが、MINXでそれをできる人が僕以外にいなかったんですよ。独学でカラーの研究を進めていくうちに、いつしかMINXのカラーを教育するポジションにつきました。
あるとき高橋マサトモさんが新美容の編集長を紹介してくれたんです。食事にご一緒させていただいて、何がよかったのかカラーの企画をいただいたんですよね。しかもこの企画が大当たりで、間髪入れずに別冊カタログの仕事もいただいて。これに出るのが当時の美容師の憧れだったんですよ。
あるとき編集長にお願いされて、色指定の見本にするための毛束を60本ぐらい提出することになったんです。それに対して僕は、余分を含めて500本ぐらいの毛束を用意。染めた毛束をピンッピンに伸ばして厚紙の上に引いて、酸化しないようにラップで包んで冷凍庫の中に入れて大切に保管しました。
それを編集長に渡すと「長崎くんはいい仕事するねー!」と大喜び。ほかのカラーリストは毛束を段ボールにバラバラに入れているだけだったから、違いが際立ったんでしょうね。撮影の出来栄えだけでなく、小さな積み重ねがあったから選ばれるようになったのだと思います。