俳優として未完成だからシンバ役を10年続けられた
撮影:上原タカシ (C)Disney
心の恩師の言葉「慣れるなよ」
演劇作品における役というのは、それまでの自分の生き方が投影されるものだと思っています。自分を偽っていると、それがだんだんと見えてきてしまう。舞台上での嘘は必ずバレる。僕はそう感じています。
『ライオンキング』のシンバと同じように、僕にも偉大な父がいて、自分自身コンプレックスを持って生きてきました。基本的に自分のことが嫌いで、ずっと続けていた剣道も胸を張れるほどの腕前ではなく…でも、唯一、自分を表現できるものとして僕には歌があった。シンバとどこか重なるところがあるんです。
こうして10年以上もシンバ役を演じさせていただいていますが、毎回新しい感動を届けられるようにしたいと思っています。僕は俳優として未完成ですから、良くも悪くも、1回、1回演じるたびに新しい課題が見つかる。次はもっと素晴らしいものを…といつも思っています。
「明日から頑張ろう」観客に活力を与えたい
今僕は新しい役に挑戦し、壁にぶち当たっている最中です。弱気になりそうなときは、自分の情熱の原点を振り返ります。劇団四季に入りたいと決意するまでは、小学校の先生になって合唱を教えたいと思っていました。でも、よく考えてみると、歌以外のことはやりたいと思えなかった。一番やりたいのは歌だったんです。だから、舞台俳優になりたいという夢を、疑いなく信じることができました。そういう想いが根底にあるから、僕は何があっても迷わず進んでいけるのです。
何かしらのきっかけがあって、「美容師になろう」と決意した美容師の皆さんも、きっと僕と同じ気持ちではないでしょうか。僕には研究生のころからお世話になっている美容師の方がいて、年齢も同じくらいなのでとても親近感を抱いています。下積みを経て、スタイリストになって、独立していく…お互いに成長している気がするのです。
観劇し終わったお客さまが、「明日からまた頑張ろう」と思えるような活力を与えられるような俳優に僕はなりたいと思っています。きっと同じような想いをもって仕事をしている美容師の方々も多いはず。お互い舞台は違いますが、誰かの元気の源になれるように、頑張っていきたいです。
- プロフィール
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田中 彰孝(たなか あきたか)
舞台芸術学院ミュージカル部本科卒業。剣道三段。『オペラ座の怪人』の観劇をきっかけに劇団四季を目指し、2003年4月に研究所入所。『ライオンキング』で初舞台を踏み、後にシンバに抜擢される。他、『マンマ・ミーア!』スカイ、『コーラスライン』ポールなど。
(取材・文/外山 武史 撮影/菊池 麻美)
劇団四季『ライオンキング』に関するインフォメーションはこちらから
https://www.shiki.jp/applause/lionking/
撮影:上原タカシ (C)Disney