今こそ考えるクリエーションとは何か。 gem代表 森川丈二 × DADA CuBiCクリエイティブディレクター古城隆(前編)

 

美容師が一つの到達点として志すクリエーションの世界。若手美容師さんの間にも、クリエーションに対するモチベーションの高まりを感じます。その一方で、「クリエーションとは何なのか」つかみかねている人が多いのも事実。

 

そこで、美容界トップのクリエーションを手掛け続けている森川さんと古城さんに、お二人がクリエーションをし続ける理由や、クリエーションについて考えていること、美容師からの質問へのアンサーなど、対談形式でお話しいただきました。本記事は前編・後編に分けてお届けします。今回は前編です。

 

プロフィール
gem代表

森川 丈二(もりかわ じょうじ)

1988年資生堂に入社。数多くのTVコマーシャル・広告のへアメークを手掛ける。様々なコレクションでのヘアメークや雑誌・ヘアショー・セミナーなどの活動を国内外で担当。1996年には、JHA(ジャパン・ヘアドレッシング・アワード)においての、最年少グランプリ受賞の他、最優秀ロンドン賞2回・準グランプリ2回など 数々の受賞暦を持つ。2006年4月原宿に『gem(ジェム)』をオープンし、Hair Makeupとして雑誌・広告・TVCF・SHOW・セミナーなどの仕事と共にサロンワークでも活動中。2020年10月サロンを移転リニューアルし更に進化し続けている。

 

プロフィール
DADA CuBiC

クリエイティブディレクター

古城隆(こじょう たかし)さん

2000年DADA CuBiC入社。02年三都杯グランプリ受賞。05年よりD.D.A.講師を務める。これまで多くの業界誌にて連載ページ・作品ページを担当。2011年には故植村隆博氏との共同著書「Basic Cut Bible vol.1」を新美容出版㈱より発刊、2013年には「正確なフォルムコントロールのための スライス徹底マスター」を㈱女性モード社より発刊。2019年および2021年Japan Hairdressing Awardsにおいてグランプリ獲得。

 

 

クリエーションは美容師の未来に欠かせない力

 

編集部:お二人とも、じっくり話す機会を求めていたとのこと。今日はどんな話をしたいと思っていましたか。

森川:古城さんという人を掘り下げるお話しができたらなと思っています。

 

古城:掘り下げてもあんまり出てこないかもしれませんけれど(笑)。

 

森川:二人とも九州出身で、東京で美容師をしている共通点があります。関西のコンテストの審査員としてお話する機会があって、共感する部分も多々あったんです。

 

古城:コンテストの審査の合間に、森川さんとクリエーションのことやサロンのことをお話しして感じたのは、まず言葉の選び方がとてもていねいであること。その言葉にはエネルギーがあって響くんですね。そういうところがとても好きですし、尊敬しています。

 

今回は森川さんと「クリエーションについて考える」をテーマにお話しします。インスタライブを見ているみなさんにも、対話を通じてクリエーションの本質を感じていただきたいです。

 

サロンワークとクリエーションは別物じゃない

 

 

編集部:そもそも、お二人は「クリエーション」をどのようなものだと捉えていますか。

 

古城:クリエーションは「自分を表現する場」だと思うんですね。サロンワークは日常を過ごすデザインに力を注いでつくるもの。業界では昔から、サロンワークとクリエーションはどう繋がっているのかとか、話題になりがちだと思います。僕が思うに、無理矢理繋げるものではないんですよね。クリエーションに真剣に取り組むことが、サロンワークの力にもなる。僕の場合はシンプルに好きだからクリエーションをしていて、それがサロンワークにも自然に繋がっています。

 

初めて撮影をした時、ポラロイド写真として浮かび上がったとき、すごくワクワクしたのをすごく覚えていて。そこから段階を経て、「クリエーションの本質ってなんだろうな」とか「エネルギーのある作品とは何だろうな」と考えるようになりました。この考え方はサロンワークにも必要な力だと思います。

 

森川:クリエーションは自己表現というか、自分自身を知る作業というか、そういうもののような気がするんですよね。髪の毛という素材を与えられて、同じテーマで切ったとしても、毎回微妙に違うし、同じことはできない。今自分の中に何があるのかが反映されるからです。

 

また、クリエーションをあまり重く捉えなくてもいいのかなと思います。何かを想像して表現していくことがクリエーションだと思うし、サロンワークも撮影も同一線上にあって、全く別のものでは決してない。やっている人は一緒だと感じているけれど、やらない人ほど別物だと捉えている気がしますね。

 

古城:森川さんはJHAを最年少でとられたのは何歳のときですか?

 

森川:29歳ですね。

 

古城:まだ最年少記録を更新した人はいないですよね。

 

森川:おそらく。すごく恵まれていた時代だったと思います。当時はカットメインのスタイルを攻めている方たちと、どちらかというとヘアメイク的な表現をする方たちとが入り乱れていました。それこそ資生堂のラインと、植村さん筆頭のDADAのラインみたいな。自分たちのアイデンティティを守りながら、多くの美容師さんに届けていく。お互い切磋琢磨しながらやってきたいい時代でしたね。

 

古城:90年代後半、自分はまだ美容学生だったのですが、森川さんの作品を見てカッコいいなぁと思ったことを覚えています。

 

クリエーションと向き合うことでサロワークはどう変わる?

 

 

編集部:先ほど、クリエーションとサロンワークは同一線上のものだというお話をされていましたが、サロンワークにどのように作用するのでしょうか。

 

古城:僕自身が大事にしているのはヘアデザイン。ヘアデザインで勝負することが僕のクリエーションのテーマです。大事なのは、ヘアデザインにどれだけエネルギーを注いで、自分のクリエーションとして表現できるか。自分じゃなきゃできないものをつくる。例えば、写真であればその中に自分がしっかり存在しているかっていうことなんですね。コンテストなどで見ていて思うのは、かっこいいものをつくる方はいっぱいいるんです。でも、訴えかけてくるものは限られている。

 

僕はヘアデザインで勝負したいので、そこにエネルギーを注いでいきたい。それを極めて突き抜けて行こうとすると、サロンワークのヘアデザインのエネルギーも上がる。それはお客さまにも伝わるんですね。

 

森川:僕も、エネルギーが反映されているものは伝わると思います。デザインやフォルム、カラー、トータルでどう見せたいかという狙いなどが、情熱があればあるほど投影されて、第三者にも訴えかける。それは、お客さま一人ひとりのことを考えることにも通じます。

 

若いうちはデザインの幅、視野が狭いものですが、たくさんの経験をすると人間としての厚みが出てくる。リクエストされたものに対してプロとしてどう返していくか。その繰り返しで引き出しも増えるし、中身も充実したものになる。やがて自信を持ってお客さまと向き合えるようになるわけです。

 

自信がない若かりし頃は、手持ちのコマで苦しんで勝負しがちですが、経験を積むことで期待を超えるものを返そうとする向上心にも繋がってきます。そういう意味で、サロンワークとクリエーションは共通ですし、エネルギーを込めたものは訴えかける力がありますね。

 

>技術的に多少の粗があっても、作り手の情熱は作品に投影される

 

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