「キミは天才じゃない」僕をサロンワークの原点に立たせてくれた先輩の言葉 BLUE TOMATO MUDAIさん
第一線で活躍する美容師の人生を変えた「恩師の言葉」を紹介する「美容師のコトダマ」。今回は原宿キャットストリートにある「BLUE TOMATO」代表を務めるMUDAI(むだい)さんのコトダマを探ります。
HEAVENSとOOO YYというデザインサロンで経験を積んだのちに独立したMUDAIさん。HEAVENSに入社する前から入社した直後の期間にフォーカスし、その当時の自分に影響を与えた言葉を教えていただきました。約20年前の空気感を感じられるインタビューです。
「全身写真はかっこよく撮りなよ」
三重県出身の僕は、16歳で上京し日野市のサロンでアルバイトをしながら、山野美容専門学校夜間部で学んでいました。その当時「このデザインいいな」と思ったスタイルがHEAVENSのスタイリストがつくったものであることが多かったんです。
実際にHEAVENSでお客として髪を切ってもらい、「カットひとつで骨格の見え方が変わる」という当時の自分にとって衝撃的な体験もしました。それで「自分も受けてみよう」と。僕の髪を担当してくれたスタイリストにその気持ちを伝えると、「履歴書に貼る全身写真はかっこよく撮りなよ」とアドバイスされたんです。
その当時は、カリスマ美容師ブームが少し落ち着き始めたくらいでしたが、まだまだ応募が多かった時代。応募者の履歴書を広いところにずらっと並べて、その中から気になるものを選ぶという感じでした。競争率が高いので、目に飛び込んでくるような写真を貼らないとスルーされてしまうというわけです。
今思うと、担当してくれたスタイリストのアドバイスは、ファッションとスタイリングをしっかりして、背景も考えて撮りなさいということだったのだと思います。でも当時の僕は「個性をガッツリ表現したほうがいいんだ!」と勘違いしたんですよね。
それで廃墟のような工事現場に忍び込み、赤と青と黄色のペンキを頭からかぶって、その姿を友人に撮影してもらいました。
その写真が偶然にも映画『気狂いピエロ』のラストシーンでジャンポール・ベルモンドがペンキだらけになり自爆するシーンのイメージと重なったらしく…合格後に「フランス映画が好きな感度高めな学生だと思った」と言われたんですよね。
勘違いで撮った写真が、人気サロンの難関を突破するきっかけになったんです。
「まず自分で探してから聞いて!」
当時アシスタントのリーダー的存在だったMORIさん(現MuNi代表)が、新人教育の担当に就いてくれる事になり、最初に「分からないことがあったらなんでも聞いてね!」と言ってくれました。
その直後に「テープはどこにありますか?」と尋ねると「自分で探してから聞いて!」と結構厳しめに言われてしまって。「これがさっきと同じ人の言葉か?」と感じた記憶が鮮明に残っています。
「分からないことがあったらなんでも聞いてね!」という言葉の中に、“分からないこと”の前に「自分で探してから」「考えてから」が入っていたわけです。
先輩からしたら何気ない一言かもしれないけれど、自分にとっては大きな意味がある一言でした。「教わる側のマナーを理解した」という点で、自分にとって転換点だったと思います。
今振り返ると、HEAVENS に入る前、16歳から働いていたサロンでは、10代であることを考慮して受け入れていただいていた気がします。だから優しかったんですよね。
その反動もあって、サロンワークや撮影、セミナー、ヘアショーなどに日々追われていたHEAVENSでカルチャーショックを受けました。スピード感に圧倒されたことを覚えています。
みんな目の前の仕事に精一杯で、キャパシティを広げながら働いていました。細かなことでいちいち質問されたら、仕事がなかなか進まない。だからこそ自分でできることはできるだけやってほしいし、新人であろうと自分で考えて動くことが求められていたのだと思います。
>「君はさー、天才じゃないからそのスタンスじゃやっていけないよ」