街の美容室vol.14 神楽坂 LOG SALON
それぞれの街を代表する美容師さんをインタビューする企画、「街の美容室」。十四回目の街は「東京/神楽坂」です。
神楽坂は、料亭街の昔ながらの風景や、カフェやギャラリーなど個性の光るお店がたくさんあり、散策するのに楽しい街です。8年前から神楽坂で美容室を営むLOG SALONのオーナー・スタイリストの森田利幸(もりたとしゆき)さんに、街の魅力やお店づくりのこだわりについておうかがいしました。
−まず、独立しようと思ったきっかけについて教えてください。
専門学校を卒業してから、原宿、表参道の大型店で20年以上美容師をやってきましたが、とにかくお客さまをたくさん回転させていく「売り上げ第一主義」に疑問を抱きはじめて…。お客さまに対して、もっとじっくり誠実に接することができるプライベートサロンをやりたいと思うようになったんです。
忙しすぎて手荒れがひどくなり、「働き方を見直してみよう」と思ったのもきっかけです。常に綿の手袋の上にゴム手袋をして、肌を乾燥させないようにしないと手が動かないほどひどい手荒れでしたが、忙しくてきちんと治療する暇もなくて。ある日、手の皮が破れて体液が止まらなくなってしまい救急病院に駆け込みました。「もうこのままでは、やっていけない」と思い、その数カ月後に退職しました。
実際に独立して働き方がゆるくなったかといえば、さらに忙しくなってしまったのですが(笑)。でも雇われているのとはまた違った忙しさで、苦にはなりません。シャンプーやリンス、その他の薬剤に関しても、できるだけ肌にやさしいナチュラルなものを厳選して使っています。今は自分に正直に働いているせいか、手荒れも以前よりよくなりました。
−神楽坂はもともとお好きな街だったのですか?
いいえ、実は独立を考えるまできたことがありませんでした。相談にのってもらっていた不動産関係の友人がたまたま神楽坂に住んでいて、打ち合わせをするために訪れたのが最初です。
もともと清澄白河にお店を出したいと思っていて進めていたのですが、ちょうど東京スカイツリーができるタイミングで、賃料が急に高騰してしまって。それでどこにしようかと、その友人と話していたら、「神楽坂がいいんじゃない?」と言われて。何回か訪れてみると神社やお寺があり、昔ながらのものと新しいものとが混ざり合うような雰囲気で、いいなと思いました。
最初にお店を出したいと思っていた清澄白河もそうですが、もともと落ち着いた寺町っぽい雰囲気が好きなんです。
−街のメイン通り「神楽坂通り」では、とくに飲食店は生き残りが厳しそうですね。美容室に関しては、いかがですか?
そうですね。この界隈の人口に対して美容室は多いようですが、飲食店ほど競争はありません。原宿、表参道で長年やっていたので競争には慣れていますし、極端なことを言えば、隣に美容室があっても気に入った場所だったら決めてもいいと思っていました。
神楽坂のメイン通りは人通りが激しく賑やかなので、1階だとお客さまが落ち着かない。2階だとしても、一方通行の狭い通りでは、わざわざ上を見上げる人もいないでしょうし、目立たないと思いました。お店を出すならメイン通りではなく、一歩入ったところの、ほどよい隠れ家感がある場所がいいと思い、この場所に決めました。