初心を忘れず、一期一会を紡ぐ 歴史ある名門サロンで志高く、走り続ける原点 PEEK-A-BOO栗原 貴史のコトダマ
第一線で活躍する美容師たちの人生を変えた「恩師の言葉」を紹介する「美容師のコトダマ」。今回は、PEEK-A-BOO(ピーク・ア・ブー)栗原貴史(くりはらたかし)さんです。高校時代から美容師を志し、数々の挑戦や困難を経て得た教訓は、彼の美容師人生をどのように支えているのか。そして、恩師や出会った人々から受け取った「コトダマ」が、彼にとってどのような力となり、未来を切り開く指針となっているのか、その軌跡に迫ります。
手紙を読み返すと昔の自分に帰る「初心を忘れない」
この取材の話をいただく前に、いろいろ思い返しながら資料を準備したんですけれど、僕の中では「初心を忘れない」というのが最も大事な言葉です。
僕は高校生のころに床屋さんでアルバイトをしていました。給料と明細が手渡しだったので、それに添えてオーナー夫妻が応援メッセージを書いてくれていたんですよね。
その言葉が一つひとつ温かかったんですよ。キリのいい金額になるように、おまけをくれるのもうれしかった(笑)。
20年以上前のことですが、今でもこの手書きのメッセージを見ると、初心に帰ることができるんですよね。自分のルーツはここにあると思っています。
僕は高校生のころから美容師になりたいと思っていたんですが、家族からはあんまり応援してもらえなかったんですね。そこで、床屋でアルバイトをしながら、力をつけて親を説得しようと思ったんです。
そのことを床屋のオーナーも知っていたから、親身になってくれたし、「彼はこの仕事向いていますよ」と親にプッシュしてもらったりしました。アルバイトも頑張っていたから、最後は親にも応援してもらい、美容師への一歩を踏み出すことができたんです。
オーナーさんからのメッセージに限らず、父や祖母をはじめいただいた手紙は全て取ってあります。折に触れて読み返してはその頃の気持ちに立ちかえることができるんです。
お寿司屋さんの大将の「お前のシャンプー気持ちよくない!」
床屋のアルバイトをはじめて2、3カ月のころの話です。お寿司屋さんの大将のシャンプーを担当したとき「お前のシャンプー気持ちよくない!」とめちゃくちゃ叱られて、そのまま帰られたことがありました。あの時のことは今もよく覚えています。あまりにも衝撃的だったので。
当時の僕は高校1年生の子どもです。しかも、なりたい職業につくために始めた仕事で、そんな大失敗をしてしまった。呆然と立ち尽くすしかありませんでした。
その日、家に帰って、自分の気持ちを書いたノートがあるんですけれど、「お客さんに気持ちのよいシャンプーをして喜んでもらうのか、それとも嫌な気持ちにさせてオーナーに渡すのか」みたいなことを考えていたんですね。そのころから、ちゃんとアシスタントの心構えはあったんだなと。お客さんを気持ちよくして渡さないと、自分の仕事は成り立たないと考えていたのは偉いなって思います(笑)。働くとはどういうことか、アシスタントの仕事はどうあるべきか考えるきっかけとなった言葉です。
>どん底で見た光「全てはやるかやらないか。やってダメならもっとやる」