カルチャーの原体験が今作るスタイルに大きな影響を与えた siki ROSE・野中和輝さん―トレンドメーカーの「ブレイン解剖」
トレンドの一歩先を行くクリエイティブを生み出す美容師は、どんなヒトやモノにインスパイアされるのか。クリエイティブな感性を持つ人たちに直撃取材し、紐解いていくのがこの企画「ブレイン解剖」です。
今回は、ファッション、映画、漫画などのカルチャー好き美容師の野中和輝(ノナカカズキ)さんが登場。2024年4月に神宮前にオープンした、sikiの4店舗目となるsiki ROSEで副店長を務めています。
そんな野中さんが得意とするのは、男女ともにナード(英語のスラングで「オタク」や「ガリ勉」の意味)なスタイル。そのセンスの根源はどこにあるのか、お話をうかがいました。
性別やスタイルを限定して表現したくない──美容師初期からのブレない軸
sikiとの出会いは、美容専門学校で一つ上の先輩だったkarinさん(sikiスタイリスト)がきっかけ。「雰囲気違うかもしれないけど、いいサロンだから一度見においで」と誘ってくれたんですよ。
それで行ってみることにしたのですが、当時の僕はすごく髪が短かったのに、オーナーの磯田さんをトリートメント指名するというちょっと意味のわからないことをしてしまったんです。それを、磯田さんがすごく面白がってくれて(笑)。もちろん冗談だったと思いますが、「お笑い枠があいてるから、うちに来なよ」と言ってくれたんですよね。
当時のsikiのスタイリストが打ち出しているスタイルと自分が好きなスタイルはテイストが違う部分もありましたが、実際にお客さんとして行ってみたら、ごく自然に自分がここで働いているイメージが湧いたこともあって、「ここしかない!」と思いました。
僕が打ち出しているのは、メンズもレディースも共通してナードな雰囲気を持ったスタイルです。ガラリとイメージを変えたいというお客さまもいますが、多くはお客さまが持っている雰囲気にプラスアルファで自分の持ち味を付け加えてナードなスタイルを作っています。新卒の頃からずっと同じテイストのスタイルが好きですし、多少ブレることはありましたが、根底にあるものは変わっていないつもりです。
自分の好きなテイストに気づくのは早い方だったと思います。新卒で入社した年がちょうどコロナ禍の緊急事態宣言が出た頃だったので、最初の数カ月は出勤もできないし、アシスタント業務や練習もできない状態。ずっと家にいて、そのときに「自分の好きなものはなんだろう?」と振り返って考える時間がかなりあったんですよね。
そのときに思い至ったのが、学生時代のエピソードでした。ヘアスタイルに対しては、昔から「寝癖が一番かっこよくない?」と思っていて。例えば、時間をかけてちゃんとスタイリングしていたとしても、学校で友達に「髪、スタイリングしてる?」って聞かれたら、「え、これ? 寝癖」って答えてたんですよ。ちょっとイタいかもしれませんが…(笑)。
ただ、ふざけているわけではなくて、寝癖といってもいいくらい力が抜けていてラフな、そんなスタイルがかっこいいと思っている節が未だにあるんです。その考えは僕が作る“ナード”な雰囲気の根源になっていると思いますし、寝癖風のセットをしていた学生時代の名残が今もあると思います。
担当するお客さまの男女比は半々くらいで、女性のお客さまが多いsikiの中では珍しいタイプかもしれません。でも、これが僕のやりたかったことで、男女の区別なくスタイルを作れるようになりたかったし、できない技術がない美容師になることが目標でした。性別やスタイルを限定することで表現の幅を狭めたくなかったんです。僕のお客さまに共通しているのは、ファッションやカルチャーが好きなこと。様々なお客さまに来ていただいている中で、それが根底にある共通点だと思います。
ただ、何か一つの技術に特化して打ち出すこともなかったのでSNSで伸び悩んだり、アシスタントの頃は作りたいスタイルと自分の技術にギャップを感じて苦しい時期もありましたね。だからこそ、思い描いていたスタイルを技術を伴って作れるようになった今は、毎日すごく充実しているしサロンワークが本当に楽しいんですよ。
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